タイのアヌティン首相が5月18日の閣議で、現行の「60日無料ビザ滞在」制度を廃止する方向で議論したことが分かった。承認されれば、対象を93カ国から57カ国に絞り、滞在日数も30日に戻る。2024年7月にセタ政権が観光振興のために緩和した制度を、わずか1年9か月で元に戻す形だ。
理由として閣議で挙げられたのは、観光目的とは思えない長期滞在者が増えていることだという。中国系・ロシア系・コロンビア系といった組織犯罪のメンバーが観光客のふりをしてタイに潜伏する事例。タイ人名義の会社を立てて実質的に外国人が経営する「ノミニー」と呼ばれる代理人型の事業。陸路の国境を行ったり来たりして、60日に30日延長を組み合わせ、結果としてほぼ1年中タイで暮らしている人々。こうした使われ方が「観光ビザの想定範囲を超えた」と判断された格好だ。
アヌティン首相は閣議で、学生ビザ・投資家ビザ・観光ビザを含めて全体を整理する必要があると発言したと伝えられている。
新ルールでは無料滞在は30日まで。これは2024年6月以前の制度に戻る数字で、対象国は57カ国に縮小される。1,650バーツを払えば30日延長できる仕組みは変わらない見通しなので、実質の最大滞在は60日。日本は2024年7月の緩和以前から無料ビザ対象に入っていた国で、新ルールでも対象に残ると見られるが、確定するのは閣議承認後だ。
承認のタイミングは5月20日以降と報じられている。官報掲載・システム改修を経て施行されるため、即日切り替えとなるか経過措置が置かれるかは現時点では不明だ。
タイ政府はこれと並行して、ETA(Electronic Travel Authorization)と呼ばれる電子渡航認証の導入も検討している。オンラインで事前に申請させて入国前にスクリーニングする仕組みで、真っ当な観光客には素通り、不審な渡航歴を持つ人物にはブレーキ、という二段構えを狙っているらしい。
気になるのは、たった2年弱で「観光客大歓迎」から「身元を確認させてもらいます」に振り戻した速度感だ。緩和で呼び込んだ層の中に、政府が想定していなかった顔が混じっていた、ということなのだろう。観光ビザを舞台にした世界各国の組織犯罪が、ここまで露骨に運用上の問題として議題化されるのも珍しい。