タイ投資委員会(BOI)が5月17日、電気自動車(EV)産業への累計投資申請額が2017年から2026年3月までで1,820億バーツ(約8,360億円)を突破したと発表した。電動車製造、バッテリー、重要部品、充電インフラを網羅する規模で、タイはASEAN最大のEV生産・販売拠点としての地位を固めている。BOIナルトム・トード・ステーラサック事務総長は「タイはACES時代(Autonomous、Connected、Electric、Shared Mobility)の世界モビリティ動向を主導する立場に立てる」と表明し、「Green & Smart Mobility Hub」構想を打ち出した。中国・日本・欧州メーカーがアセアン拠点として投資を集中させており、日系自動車メーカーの存在感も健在だ。
累計1,820億B投資の内訳
BOIによれば、2017年〜2026年3月の累計1,820億バーツ規模の投資は次の4分野を網羅する。
第1に、EV車両組立(OEM完成車工場)。タイには既にBYD、Great Wall Motor、MG、テスラ、Geely、Hozon Auto等の中国系メーカーに加え、トヨタ・ホンダ・三菱・いすゞ・日産・スズキ・マツダなど日系メーカーがEV/HEV生産ラインを構える。第2に、バッテリー製造。CATL、BYD、Geely系などの中国系バッテリーメーカーがチョンブリ・ラヨーンを中心に集中投資。第3に、重要部品(パワー半導体、モーター、減速機など)。第4に、充電インフラ。EA Anywhere、PEA Volta、PTT Stationなどが全国展開を進めている。
タイEV市場は2025年にBEV販売台数が7万台超を記録し、2026年は40%増の予測で、ASEAN域内で過半数のシェアを占める。
ACES時代の4要素
「ACES」とは、グローバル自動車産業が向かう4つのメガトレンドの頭字語だ。
- Autonomous(自動運転):レベル2〜4のADAS(先進運転支援)→ 完全自動運転への進化
- Connected(コネクテッド):車両がインターネット・他車両・インフラと常時接続
- Electric(電動化):内燃機関からEV・HEV・FCVへの転換
- Shared Mobility(シェアモビリティ):Grabのようなライドシェア、カーシェア、サブスクリプション型所有
これら4要素の組み合わせで、自動車産業の中核技術はソフトウェア・電子機器・バッテリー管理システム・ADASセンサーへと移行している。タイはこれら技術領域への投資誘致を強化中だ。
グリーン&スマートMobility Hub構想
BOIは5月13日、「SUBCON Thailand 2026」展示会内で「Thailand Driving Toward Smart and Green Mobility」と題したシンポジウムを開催した。中国・日本・欧州の主要メーカーが集まり、(1)EVサプライチェーンの現地化、(2)バッテリーリサイクル、(3)充電インフラの規格統一、(4)ADAS・自動運転技術の地域開発、を議論した。
シンポジウムにはいすゞ、Bosch等の日系・グローバル企業の幹部が登壇。BOIは「ASEAN地域の次世代自動車製造基盤」としてのタイの位置づけを国際的にPRしている。
日本メーカーの位置づけ
タイには伝統的に日本の自動車メーカーが集積している。トヨタ・モーター・タイランド、ホンダ・オートモービル・タイランド、三菱モーターズ、いすゞ、日産、スズキ、マツダ、スバルが現地生産拠点を持つ。
EV化に伴い、これら日系メーカーは(a)既存ICE/HEV生産ラインの維持、(b)EV/PHEVの段階的導入、(c)中国系メーカーとの価格・技術競争、という3つの課題に直面している。今回の発表は中国系メーカーの台頭が前面に出る内容だが、日系メーカーの存在感は依然として大きく、特にいすゞのピックアップ・トラック分野はタイ市場最大規模のシェアを維持している。
関連背景
EV投資集積は、(1)タイ国内でのEV車両選択肢の拡大、(2)EV補助金(個人向け6〜10万バーツ、企業向け要件付き)の継続、(3)充電ステーション網の拡大、という3つの形で生活に直結する。
駐在員家庭でEV購入を検討する場合、(a)BYD ATTO 3、Tesla Model 3/Y、MG4、Neta V、Hozon Auto、トヨタbZ4Xなど主要モデルの価格は2025〜26年に競争激化で値下がり傾向、(b)充電インフラはバンコク・パタヤ・チェンマイ等の主要都市で十分整備、(c)EV保険料は年5,000〜2万バーツが目安、を押さえておくと判断しやすい。