タイ・ウドンタニ県シタト郡で発生した11歳少女虐待事件をめぐり、母が「警察に届け出を拒否された」と訴えたドラマに対し、シタト警察署のサクシット・タナキットパイロート警視(PSS、署長)が5月15日に正式に反論説明を行った。警察側の主張は「現場警官は届出を拒否したのではなく、子の負傷状態を見て『先に医療を受けるべき』と医療優先を勧めた」というもの。前サイクル記事で表に出た「警察初動の遅れ」というドラマに対する、警察側の論点だ。母娘と警察双方の主張が並行する形で、事件の構造がより複雑化してきた。
5月14日午前2時、母娘が届け出のため警察署を訪問
シタト警察署長の説明によれば、事件のきっかけは5月14日午前2時のことだった。被害者の母が、虐待を受けた娘(11歳)を連れてシタト警察署に到着し、届け出を提出しようとした。当時、勤務中だった警察官(プラチャムワン=当番警官)が娘の状態を初期確認した。
警察「子の負傷を見て、医療優先を勧めた」
警察官の判断は「最も重要なのは子の医療治療」というものだった。子が物理的に明らかな負傷を負っている状態で、書類手続きを優先するのではなく、まず病院で診療を受けるよう母に強く勧めたという。具体的な手順としては「まず病院へ急いで連れて行き、診療証明をもらった上で、その後に改めて届出書類を作成しに来てください」と案内した形だ。
「届出拒否」との認識と警察の「医療優先」の食い違い
母の側からは、これが「届出を拒否された」という認識に映った可能性が高い。一方、警察側は「拒否ではなく、児童保護の観点で医療を優先させた」と主張している。両者の主張は、事実関係の同じ事象を別の角度から見たものとも言えるが、母にとっては「警察に頼れなかった」体験として深い不信を残した形だ。
パウィーナ財団とウドンタニ県知事の介入で表面化
母は警察の対応に不公平を感じ、児童・女性虐待救援の「パウィーナ・ホンサクン財団」に苦情を申し出た。これがメディアに広がり、ウドンタニ県知事ラチャン・ズンフア氏が現場対応を指示する事態に発展した経緯がある。今回の警察署長の説明は、この社会的批判の高まりを受けた公式の見解整理だ。
タイ警察の児童虐待対応の課題
タイの児童虐待・性的被害事案では、警察の初動対応の質に大きなばらつきがある。「医療優先」と「届出受理」のバランスは、確かに難しい判断だ。緊急医療が必要な状態であれば医療優先は正しいが、その場合も「届出を受理した上で病院搬送」という選択肢がある。今回のケースで、警察官が「受理せず病院へ行ってから」と案内したのは、結果として母の不信を生んだ。
在タイ日本人にとっての見え方
タイで子どもが事件・事故に巻き込まれた際、日本人駐在員家庭の場合は、まず病院(カウンセラー・診療証明発行)と並行して、大使館領事部、学校カウンセラー、児童保護NPO(パウィーナ財団含む)への接続を確保することが、結果として子どもを守る経路になる。警察の初動対応が地域によって質に差がある現実を踏まえ、複数の支援ルートを確保する姿勢が重要だ。