タイの有名ニュースアナウンサー「アエム・サロチャ(สโรชา พรอุดมศักดิ์・サロチャ・ポーンウドンサック)」が5月13日、自身のFacebookで「人生の最終段階に近づいている、もう時間がない」と公表した。長年癌と闘ってきた経歴を明かし、「Yuen Yen Social Enterprise(穏やかな旅・社会事業)」のイサーラング・ヌッチャプラユーン医師チームと「ピヤパントン財団」の支援のもと終末期ケアを受けながら過ごしていることを発信した。タイのメディア界の重鎮に育てられた著名キャスターの告白は、SNSで大きな共感を呼んでいる。
メディア界の「師弟関係」と闘病の軌跡
アエム・サロチャ氏はタイの主要ニュース番組「คุยทุกเรื่องกับสนธิ(ソンティとともに語ろう)」などで数十年のキャリアを積んだ。幅広い視聴者から信頼を得た女性キャスターの先駆けであり、社会問題や政治への鋭い視点で知られる。
メディア界の重鎮・ソンティ・リムトンクン氏(ASTVマネージャーグループ創設者、PAD「黄シャツ運動」指導者)がアエム氏を「第二の父」として親身に指導し、闘病期間中も支援を続けているというエピソードがSNSで大きな反響を呼んだ。アエム氏は投稿の中で「過ちがあれば許してほしい」とも記し、タイ仏教的な死生観に根ざした言葉が多くの人の心に響いた。
数年間にわたる癌との闘いの中で、治療・手術・化学療法を重ねながらも社会への露出を維持し続けた。今回の「最終段階」公表は、そのような闘病の最後の一幕となった。
終末期ケアを支える二つの組織
「Yuen Yen Social Enterprise(穏やかな旅・社会事業)」は終末期医療の社会事業として、医療・看護・心理ケアを統合した支援を行う。患者の自宅や施設での療養支援・家族へのカウンセリング・「尊厳ある死」の実現に向けた活動で、タイの終末期医療の先駆的存在として位置づけられる。主治医のイサーラング・ヌッチャプラユーン医師は緩和ケア・終末期医療を専門とし、大学病院での臨床経験を持つ。
ピヤパントン財団はタイ北部を中心とする慈善救助組織で、終末期ケアの専門研修・地方への普及・患者と家族への支援を担う。看護師や医師のボランティアが集まる組織だ。
タイの終末期医療の現在地
タイの緩和ケア(Palliative Care)は2000年代から発展し、バンコクのチュラロンコン病院やシリラート病院が中心的な役割を果たしている。ただし地方への普及は途上にあり、公的医療保険(NHSO・ユニバーサルヘルスケア)のカバーも限定的だ。民間NGO・宗教団体の活動や家族の自宅ケアという伝統的な形が今も重要な役割を担っている。
「尊厳ある死」への社会的意識は高まっており、アエム氏の公表はその議論をさらに前進させるきっかけになっている。タイ仏教の輪廻転生思想・「カム(業)の清算」という概念が、アエム氏の言葉の背景にある死生観だ。
バンコクに住む日本人にとっても、緊急時の入院先として名の挙がるバンコク病院・サミティベート・BNHには緩和ケア部門があり、終末期を視野に入れた医療相談が可能だ。アエム氏の告白は、「人生の意味」を考える機会として多くの在タイ日本人の関心も集めている。