タイ疾病管理局(Department of Disease Control・DDC)が5月11日から、南米13か国からの到着者に対する「ハンタウイルス監視スクリーニング」を強化し、5月12日にDDC局長モンティエン・カナサワット氏がスワンナプーム空港の国際疾病管理チェックポイントを視察した。過去6週間以内に対象13か国を訪問した旅行者は、入国審査前に疾病管理官にT.8健康申告フォームで報告必須となり、発熱(38℃以上)・頭痛・筋肉痛・腹痛・呼吸困難の症状があればバムラスナラドゥラ感染症研究所への移送対象となる。5月9日以降470名(1日平均157名)が検査され、スワンナプーム空港が最多371名、現時点でタイ国内のハンタウイルス感染確認例はゼロ。タイの公衆衛生体制が国際感染症リスクへの対応として強化された事案となった。
事件の詳細は次の通り。
| 項目 | 詳細 |
|---|
| 実施開始日 | 2026年5月11日 |
| 視察日 | 2026年5月12日 |
| 主管機関 | タイ疾病管理局(DDC) |
| 視察者 | モンティエン・カナサワット DDC局長 |
| 視察場所 | スワンナプーム空港の国際疾病管理チェックポイント |
| 対象旅行者 | 過去6週間以内に南米13か国を訪問 |
| 健康申告書 | T.8 Health Declaration Form |
| 警告症状 | 38℃以上の発熱・頭痛・筋肉痛・疲労・腹痛・吐き気・嘔吐・呼吸困難 |
| 隔離移送先 | バムラスナラドゥラ感染症研究所 |
| 検査開始日 | 2026年5月9日 |
| 累計検査数 | 470名(1日平均157名) |
| スワンナプーム空港検査数 | 371名(最多) |
| タイ国内感染確認 | ゼロ |
| DDCホットライン | 1422 |
ハンタウイルスは齧歯類媒介の感染症だ。(A)ネズミ・ハタネズミの排泄物が感染源、(B)腎症候性出血熱(HFRS)・ハンタウイルス肺症候群(HPS)の2型、(C)ヒト-ヒト感染は限定的、(D)致死率:HFRS約1-15%、HPS約30-50%、(E)特異的治療薬なし、対症療法のみ、(F)潜伏期間2-4週間、というシステム。最近の南米でのHPS集団発生がタイの警戒理由となっている。
南米でのハンタウイルス流行状況を整理する。(i)2023年以降のHPS集団発生報告、(ii)アンデス地方の山間部での感染、(iii)観光地での感染リスク、(iv)2025年Q4にチリ・ペルーで死者数増加、(v)2026年Q1にアルゼンチンでの大規模発生、(vi)WHOの感染症警告、というグローバル傾向。タイのDDC強化検査は、この国際的脅威への先制的対応。
T.8健康申告フォームの導入は重要だ。(A)入国審査前の自己申告制、(B)症状・接触歴・滞在地・経由地の記入、(C)疾病管理官による現場判定、(D)疑わしい場合の即時隔離移送、(E)プライバシー保護、(F)多言語対応(英語・中国語・スペイン語・タイ語)、というシステム。新型コロナウイルスのパンデミック時の経験を活かした健康申告プロトコルが、ハンタウイルスにも応用される。
バムラスナラドゥラ感染症研究所(Bamrasnaradura Infectious Disease Institute)は、(i)タイ保健省傘下の専門研究所、(ii)バンコク郊外パーククレット地区に所在、(iii)感染症患者の隔離治療専門、(iv)負圧病室・BSL-3実験室を完備、(v)新型コロナ・エボラ・MERSなどの患者対応経験、(vi)国際的な感染症研究協力、というシステム。ハンタウイルス疑い患者の専門隔離治療を実施できる唯一のタイの専門機関。
スワンナプーム空港の国際疾病管理チェックポイントは、(A)タイの空港17か所、(B)港湾18か所、(C)陸路39か所、合計74か所の国際疾病管理チェックポイントの一つ、(D)24時間体制、(E)DDC職員と空港当局の連携、(F)旅行者数百万人/月の対応、(G)疾病監視データの集中管理、というシステム。スワンナプーム空港は東南アジアのハブ空港として、世界中からの旅行者が集まる。
タイの公衆衛生体制の歴史的背景は深い。(i)2003年SARSの経験、(ii)2009年新型インフルエンザの対応、(iii)2014年MERS輸入患者対応、(iv)2020年新型コロナの初期対応で東南アジアトップ評価、(v)国際的に評価される検疫体制、(vi)WHO東南アジア地域事務局との密接連携、(vii)タイ国内製薬産業との連動、というシステム。今回のハンタウイルス対応も、この継続的な強化の延長線上にある。
国際的な比較も参考になる。(A)日本:南米からの旅行者にハンタウイルス検査未実施、(B)韓国:類似のスクリーニング制度、(C)シンガポール:チャンギ空港で同様の検査、(D)香港:南米経由旅行者へのフォローアップ、(E)米国:CDCによる症状監視、(F)EU:ECDCによる協調対応、というグローバル傾向。タイの対応は東南アジアの中で最も先進的と言える。
タイで懸念される他の輸入リスクとして、(i)アフリカ:エボラウイルス・マールブルクウイルス、(ii)中東:MERSコロナウイルス、(iii)南米:・チクングニア・ジカ熱、(iv)東南アジア:ニパウイルス、(v)アジア:H7N9鳥インフルエンザ、(vi)グローバル:新型ウイルス出現、などがある。タイのは多方面の感染症監視を継続している。