サムットプラカン県バンプリー郡の賃貸住宅で5月12日、82歳の家主セティアン氏が、トイレに置かれた古い大型の水缶に頭を突っ込んだまま死亡しているのが発見された。妻シリラット氏(81歳)は「水をすくおうとして気絶し、缶に頭から倒れたのだと思う」と証言、家族は遺体を医学標本「アジャーン・ヤイ」としてタイ医療大学に寄贈すると発表した。高齢者の孤独死と、死を社会貢献に変える伝統文化が交差した出来事として、タイ社会に深い感動を与えている。
「水が欲しい」と叫び声、妻が見に行くと
現場はバンプリーヤイ町キングケーオ地区15組の賃貸住宅。セティアン氏が別室で寝ていた妻に「水が欲しい」と叫び声を上げたが、いつもの声と聞こえたため妻が確認に行った時点ですでに息がなかった。推定死亡時刻は発見の1〜2時間前。救助隊ポー・テック・トゥン基金とサ・パイ・ムアン・バンケーオ警察署が現場検証を行い、溺水死と判断した。
妻シリラット氏のほか、同住宅の住人プラシター氏も事情を証言した。水缶は古い大型の塗装缶を流用した自家製のもので、トイレに常設されていた。足を滑らせるか意識を失うかして頭部から缶に入り、そのまま抜け出せなかったと推測される。
医学標本「アジャーン・ヤイ」として寄贈へ
家族はセティアン氏の遺体を「アジャーン・ヤイ(อาจารย์ใหญ่・大先生)」としてタイ医療大学に寄贈することを決めた。アジャーン・ヤイはタイの伝統的な医学標本寄贈の制度で、遺体が医学・歯学・看護学生の解剖学実習に使われる。実習期間の2〜5年が終わると、特別な仏教儀式とともに火葬が営まれ、学生たちは「大先生」と呼んで敬意を表す。
チュラロンコン大学、マヒドン大学シリラート病院、コンケン大学など全国の主要医学部が受け入れており、年間数十人から数百人規模の寄贈者を受け容れている。「死後の貢献」として尊ばれる行為で、今回の家族の決断もタイ社会で広く称えられた。