タイ南部のトンガチャン野生動物保護区で5月12日、絶滅危惧種の南部メガネザル(学名Trachypithecus obscurus)の成熟した雄1頭が高圧電線から落下し、感電による下半身麻痺の重症を負った状態で発見された。変圧器の爆発音が事故発生の合図となり、落下した個体を保護区職員が発見して繁殖飼育センターへ緊急搬送し、獣医による治療が始まった。
森の動物が電線を「枝」と見なす悲劇
事故のメカニズムはこうだ。森林樹冠の上に架線された高圧送電線を、メガネザルが樹冠の延長として通行ルートに利用した。22kV以上の高圧電流に接触すると筋肉が硬直して下半身の神経が麻痺し、バランスを崩して地上に落下した。変圧器の爆発音は動物が触れた際の短絡電流が原因とみられる。
南部メガネザルは目の周りに白い「眼鏡」模様を持つ樹上性の霊長類で、体重8〜15キログラム、5〜15頭の家族群で生活する。IUCN絶滅危惧II類(Endangered)に分類され、タイ野生動物保護法の保護対象だ。タイ南部の森林破壊と道路拡張で生息地が年々縮小している。
下半身麻痺からの野生復帰は困難
脊髄神経の感電損傷は回復可能性が低く、今回の個体は繁殖飼育センターでの長期ケアが必要になる見込みだ。絶滅が危惧される種のオス1頭の「実質的な繁殖機会の喪失」は、種の遺伝的多様性にも影響を与える。
タイ南部の保護区周辺では毎年複数の動物感電事故が発生している。動物保護区と電力インフラが近接し、絶縁措置が不十分で、動物専用の横断路(アーケード)も整備されていないことが繰り返される被害の背景だ。タイ国家公園・野生動物保護局(DNP)は対策を検討しているが、財政・人員の制約で実装が遅れている。緊急の動物救助は1362番(DNP)に通報できる。


