タイ投資委員会(BOI/Board of Investment of Thailand)が、2025年の投資促進申請額が組織60年の歴史で最高となる約420億米ドル(約1兆4,000億バーツ相当)に達したと発表した。The Thaigerが2026年5月4日に伝えた業界分析によると、Amazon・Google・Microsoft・ByteDance(TikTok)・BYDといった世界トップクラスのテック・自動車大手が大規模投資を相次いで表明し、デジタル分野がついにタイの伝統的主軸である電子・自動車部門を抜いて、外資投資の最大カテゴリーに昇格した。
主要企業の投資内容は次の通り。Amazon Web Services(AWS)はタイへのクラウドリージョン構築に約50億ドルの投資を計画し、地域全体をカバーする中核データセンター拠点とする方針を打ち出した。Googleは10億ドル規模のデータセンターとクラウドインフラ投資を発表。Microsoftも重要なAIおよびクラウドリージョン投資を進行中だ。ByteDanceはTikTokの地域データハブをタイに置く方針で、数十億ドル単位の展開を予定している。中国EV大手BYDは既存の年産15万台のEV製造工場179億バーツ投資に加え、追加で38.9億バーツのEV・PHV両用電池工場の建設承認を取得済みだ。
国際比較ではこれまでタイは劣勢の評価を受けてきた。同地域ではベトナムが7%成長、インドネシアが5%安定の中、タイは2.4%と低迷し、IMFは2026年予測も下方修正していた。それだけに今回のBOI申請額の60年来最高記録は、外資が「政治情勢の混乱が続いてもタイのインフラ・人材・サプライチェーンを長期的にリスクヘッジできる候補地」と再評価したことを示す重要なシグナルとなる。
セクター別では、これまで主役だった電子(E&E)・自動車に加え、デジタル分野が大きく前進した。2024年時点で既にデジタルセクターが2,433億バーツの申請でE&E(2,317億バーツ)を超え、首位に躍り出ていた。2025年もこの傾向が継続し、データセンター・クラウドインフラ・AI関連投資が量・質ともに急拡大した形だ。米国・中国の企業がタイをアジア太平洋の中核ハブとして選び始めている構造変化は、タイ経済の長期的な雇用・税収・技術波及に大きな影響を持つ。
Moody'sはこの動きを評価し、2026年初頭にタイの格付け見通しを「negative」から「stable」へ格上げした。これは外資受け入れ強化と財政基盤の安定が国際的に認知された結果であり、政府が並行して進めている4,000億バーツ借入による経済刺激策や60日ビザフリー縮小による観光の質重視シフトとも整合する政策パッケージとなっている。
在タイ日本人ビジネスへの示唆は3つ。第1に駐在員市場の構造変化。AWS・Google・MicrosoftがタイにAI・クラウドの中核拠点を構えれば、エンジニア・運用要員・データセンター技術者の需要が急増し、欧米系IT企業の駐在員数とプレゼンスが拡大する見込みだ。第2に日本企業のサプライチェーン上の位置づけ。EV関連でBYDが製造拠点を強化する流れは、日本車部品サプライヤーにとって競争激化の局面を意味する一方、グリーン・トランジション投資の波に乗ればチャンスにもなる。第3に不動産・オフィス・教育市場への波及。外資テック企業の駐在員家族が増えれば、インターナショナル校・高級コンドミニアム・英語対応サービスへの需要が押し上がり、駐在員家庭の生活コスト・選択肢が変化する。