タイ中央銀行(BOT)が2026年のタイ経済を「スタグフレーション(成長停滞と物価上昇が同時進行する状態)」に入ったと認識した発表を行った。GDP成長率予測を従来の1.9%から1.3%へ大幅に下方修正する一方、インフレ率はBOTが設定する目標範囲を超える3.2%と予測している。経済が伸び悩むなかで物価が上がるという構造的に難しい局面に踏み込んだ形だ。
経済成長を支える「2つの主要エンジン」が外的要因で打撃を受けている。1つは輸出で、米中通商摩擦の長期化と中東情勢の不透明さが世界貿易のサイクルに影を落としている。もう1つは観光業で、強いバーツによる旅行コスト上昇が回復ペースを抑え込んでいる。タイ経済の伝統的な「輸出+観光」の二本柱が同時に弱まる構図になった。
インフレの主因は燃料・電気・食品といった生活必需品の価格上昇である。中東情勢を背景にした原油高、エネルギー基金の補助余力低下、物流コストの上昇が末端価格を押し上げ、BOTの設定する目標範囲(1〜3%)を超過する3.2%の上昇圧力を生んでいる。スタグフレーション環境ではインフレ率が4.4%程度まで上振れる可能性も示唆されている。
政策金利については、BOTは1.00%の現行水準を維持する見通しを示した。インフレを抑える観点では利上げが定石だが、タイの家計負債率が高い中で金利を上げれば消費と中小企業の資金繰りに直接打撃を与える。一方、経済刺激のために利下げをすれば、インフレと通貨安を招きかねない。「上げても下げても痛い」状況で、現状維持が消極的だが現実的な解と評価されている。
在タイ日本人の生活実感としては、「電気代・燃料費・食品の値上がり」と「給与の伸び悩み」を同時に体感する局面となる。輸出企業勤務であれば実質賃金がじわりと圧迫され、サービス業に関わる層は売上が伸びない一方コストだけ上がる構図になる。タイ経済の構造改革が遅れれば、スタグフレーションは短期で解消しない長期課題として残る可能性が高い。