英国人の富裕層投資家がプーケット・バンタオビーチ近くのフリーホールド(完全所有権)コンドミニアムを5,600万バーツ(約130万ポンド)で購入し、SNSに「世界中の所得に対して個人所得税はゼロ」と投稿した件がタイの在住外国人コミュニティで大きな話題を呼んでいる。まるで「税金なしで家が買える国」と受け止めた読者が続出し、羨望とツッコミが同時に飛び交う状況になっている。
この英国人が活用したのは2022年に始まった長期居住(LTR)ビザのうち「Wealthy Global Citizen(富裕なグローバル市民)」枠で、タイ王室勅令第743号に基づいて国外由来の所得に関する個人所得税が免除される。対象となるのは海外の給与、オフショア利益、海外投資のキャピタルゲインなどで、タイ国内で発生した所得はあくまで課税対象のままである。
ただし「税金ゼロ」の主張には落とし穴がある。タイの不動産取引で発生する税金・手数料はLTRビザでも免除されない。購入時にかかるのは、査定額の2%の移転手数料、売主が5年未満の保有だった場合は3.3%の特別事業税(SBT)、そして売主側の源泉徴収税だ。今回の5,600万バーツのケースでは、買主の負担分の移転手数料だけで約56万バーツ、SBTが約184万バーツに達すると試算されている。
そもそも外国人がタイのコンドを所有するには、タイのコンドミニアム法に基づいた49%の外国人持分枠に収まっている物件であることが前提だ。購入資金は海外から5万ドル以上の外貨送金として振り込み、外為取引フォーム(FET)を銀行経由で取得しなければならない。これが整わないと土地局で名義登記ができない。
購入後の税金もゼロではない。コンドを貸し出してタイ国内で賃料収入が発生した場合、累進0〜35%の所得税がかかる。さらに年次の土地建物税が評価額の0.02〜0.10%、売却時は保有期間5年未満なら再び3.3%のSBTが乗る。LTRビザはあくまで「海外所得に対するタイの個人所得税」をシールドするもので、国内で発生した所得や不動産の取引そのものを税金から切り離すわけではない。
5,000万〜1,000万バーツクラスの普通サイズのコンドを買う場合はさらにシンプルで、例えば750万バーツの物件なら売主と折半する移転手数料が15万〜37.5万バーツ、SBT・印紙税が24.75万バーツ前後になる。LTRの有無で大きく変わる数字ではない。
日本人にとっては、日本の居住用不動産で長期譲渡益にかかる約20%の税率を意識しながら、タイの5年ルールと比較する視点が欠かせない。「タイなら税金ゼロで大きな家が買える」という誤解をそのままSNSで共有してしまうと、思わぬ追加課税や登記トラブルにつながる。特にLTRの資産要件は100万ドル以上の資産と相当な年収基準を求める厳しい枠であり、日本の一般的な駐在員や退職後のロングステイ層がそのまま当てはめられるわけではない。
バンコクのタイ大使館・領事館や、タイ投資委員会(BOI)のLTR特設ページで要件と税制の最新情報は公開されている。物件購入を検討する際は、日本の税理士とタイの法律事務所に同時に相談し、LTRビザの所得税免除と土地局での取引税を切り分けて理解することが、「話が違う」を避ける最短ルートになる。