タイの人民党下院議員候補ナッタヤ・ブンパクディー氏が4月16日、人口統計を公表し、2036年までに60歳以上が人口の3分の1を占める「超高齢社会」入りを警告した。同時に、第1段階(即時)と第2段階(2028年度開始)の2段階からなる包括的な少子化対策を提案。アヌティン第2政権が人口問題に踏み込んだ政策をまだ示せていない中、野党側からの具体策提示となった。
ナッタヤ氏が示した数字
- 2025年出生数:41万6,574人(前年比約5万人減、1975年以降最低)
- 2025年死亡数:55万9,684人
- 死亡が出生を上回るのは5年連続
- 2026年は出生数が40万人を割る可能性
- 2036年までに労働年齢人口250万人喪失
- 2074年には人口が3,000万人まで減少との長期予測も併せて提示
第1段階(即時対応)
- 全世帯対象の新生児補助金(低所得層限定でなく一律)
- 低所得農漁業世帯への学用品支援予算
- 1児童1日2食(朝食+昼食)の学校給食無料化
- 児童1人当たりの予算配分の増額
第2段階(2028年度開始)
- 妊娠5ヶ月目からの月額手当
- 0〜2歳児向けコミュニティ保育所の全国設置(営業時間を午後6時まで延長)
- 企業向け税控除:保育施設・授乳室整備で最大100万バーツ
- 最低賃金を生活費に連動して調整
- 週40時間労働制の導入
- 家族休暇制度の拡充
- 全国学校安全基準の改善・教員研修強化・障害児支援拡充
マヒドン大学調査が示す「産みたいけど産めない」
ナッタヤ氏は提案の根拠としてマヒドン大学のジェンダー・人口統計調査を引用した。Gen Y・Gen Z世代は引き続き子どもを持ちたいと考えているが、高コスト・就労時間中の保育不足・生活の質への不安が壁になっていると指摘。問題は「意欲」ではなく「環境」だという立場を明確にした。
政権対応への暗黙の批判
ナッタヤ氏の提案発表は、アヌティン第2政権が4月11日に発表した燃料価格対策(家計全体の負担減には不十分との評価)に続く形で行われた。政権が70の政策分野を掲げる中、人口問題への踏み込みが弱いことへの問題提起の意味合いも含む。5月は学期開始で家計の高コスト月となるため、提案のタイミングも意識されたとみられる。
背景:すでに「完全な高齢社会」入り
タイは2025年末時点で人口6,580万人、60歳以上が20.69%に達し、すでに「完全な高齢社会」入り済み。世界銀行は2060年までに公的医療+年金支出がGDPの11.5%に達すると試算しており、現行の医療支出4.4%から大幅な増加となる見通しだ。
詳細な人口動態と日本との比較は別記事出生数41万人で75年ぶり最低を参照。
課題:先行国でも出生率反転は困難
日本の合計特殊出生率は各種対策を経て2024年で1.20、韓国は0.72まで低下している。タイの1.0も短期的な反転は見込みにくいのが先行事例の示す現実だ。提案された2段階対策は方向性として妥当だが、効果が現れるには10年単位の時間が必要となる。その間にも労働力人口250万人の喪失は進行する。ナッタヤ氏の警告は、対策の遅れが許されない時間軸であることを示している。