不敬罪(刑法第112条)の改正案を国会に提出したこと自体が「重大な倫理違反」にあたるとされた異例の訴訟である。タイ国家汚職防止委員会(NACC)は長期にわたる調査を経て、4月9日に最高裁判所への正式な訴追を決定した。
提出された書類はバン3台に積み込まれた10箱分に及び、NACCが積み上げた証拠の規模を物語っている。訴追対象の44人は、前進党(ก้าวไกล)が看板政策として掲げた112条改正案に賛同し、国会に提案した議員たちである。
最大の焦点は、44人のうち10人が現在の人民党(旧前進党の後継政党)に所属する現職議員である点だ。最高裁が訴訟を正式に受理すれば、この10人に対して議員としての職務停止命令が下される可能性がある。野党第一党から10人が職務停止となれば、国会の勢力図に直接影響を及ぼしかねない。
前進党は2024年に憲法裁判所から解散命令を受け、その後継として人民党が設立された経緯がある。今回の訴追は前進党の解散後もなお、その政策に関わった議員個人への責任追及が続いていることを改めて示した。改正案を「提案する行為そのもの」が倫理違反とされた判断は、タイの政治的自由をめぐる議論にも波紋を広げそうである。
今後は最高裁が訴訟を受理するかどうかが第一の関門となる。受理されれば現職10議員の処遇が直ちに問われることになり、タイ政治の行方を左右する重要な局面を迎える。


