エクニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務大臣は2026年3月25日、中東情勢に起因する燃料価格の高騰に対し、5グループへの緊急経済支援策を政府として準備中だと表明した。石油基金の財源が限界に近づく中、ディーゼル1リットル33バーツの価格上限を撤廃する方針に転換し、生じる生活費の上昇を対象を絞った直接給付で補う戦略に軸足を移した形だ。
第1のグループは年収10万バーツ(約44万円)以下の低所得層だ。福祉カード(บัตรสวัสดิการแห่งรัฐ)の保持者約1,340万人が対象で、食費や電気代の補助枠に燃料支援を追加する形での上乗せ給付を検討している。すでに支払いインフラが整備されているため、新内閣の承認後に迅速な実施が可能だとエクニティ氏は説明した。
第2のグループは運送業界だ。全国に約36万台存在するトラック、さらに路線バス事業者が対象となる。燃料費はディーゼルを主な動力源とするトラックにとって最大のコスト要素であり、上昇分が運賃に転嫁されると食料品や日用品など一般物価全体の押し上げにつながる。エクニティ氏は「輸送業者を直接支援することが、消費者物価の安定にも直結する」と述べた。
第3のグループは公共工事の請負業者だ。燃料価格の変動を調整係数K(ค่า K)の引き上げにより吸収させる制度的手当てが検討されている。残る第4・第5のグループには漁業関係者や農業従事者が含まれる可能性が高い。いずれも燃料コストの上昇が事業存続に直結する分野だ。農業用機械の燃料費は農家の生産コストに直結し、漁業では出航コストが数割単位で増加している。いずれの支援策も、燃料価格上昇が波及する川下の産業への打撃を最小化するためのものだ。
支援策の実施には新内閣の正式発足が前提条件となる。2026年3月当時のタイは選挙後の新政権樹立プロセスの途上にあり、中央予算の執行権限は暫定政権にはなかった。緊急の財源措置にあたっては、国王の裁可を経た予備費(งบกลาง)の活用が想定されている。エクニティ氏は「新内閣が発足次第、最優先で対処する」と明言した。
タイの石油基金(กองทุนน้ำมันเชื้อเพลิง)はイランによるホルムズ海峡封鎖後に原油価格が1バレル100ドルを超えた時点から、1日当たり25億バーツ以上の赤字が続いていた。累積債務は数百億バーツに膨らみ、価格補助の継続は財政的に限界に達していた。価格統制を撤廃し、その影響を受ける層に直接補助する方式に切り替えるのが今回の方針転換だ。国内のエネルギー専門家の間でも「補助金ではなく給付金」への移行を支持する声が多かった。
タイでは2026年3月時点でディーゼルの小売価格が急激に上昇し、農村部でも数時間待ちの給油渋滞が全国的に発生していた。クラビー県では丸1日かかる事態も起きた。燃料価格の高騰は食料品から農業資材まで幅広い物価上昇を引き起こした。タイの1世帯あたりの月間燃料費は平均2,500〜3,500バーツとされており、低所得層ほど収入に占める割合が大きい。福祉カードを通じた補助が月数百バーツ規模になる見込みでも、ディーゼルが33バーツから47バーツ超へ上昇した場合の追加負担を完全には補えない計算となっている。支援規模と対象の絞り方が今後の政治的な焦点となるが、財政健全性への配慮から補助金の規模は限定的にならざるを得ないとの見方も強い。
タイのインフラ整備や農業分野では、ディーゼルの高止まりがプロジェクトコストの再計算を迫っている。建設業界では鋼材・セメントと並びディーゼルが主要コスト要素であり、公共工事の入札価格の見直しや契約変更の申請が相次いでいる。政府は請負業者向けのK係数調整を早急に実施することで、公共工事の遅延防止にも対応していく方針だ。