中東の軍事衝突による原油価格高騰が続く中、タイのエネルギー省は2026年3月23日、「タイのディーゼル価格はマレーシアより安い」と主張した。国内の燃料価格が上昇しているにもかかわらず、補助金政策によって近隣国より低く抑えられているというものだ。
エネルギー省の主張
政府庁舎でエネルギー政策計画局(EPPO)副局長のウォチャリン・ブンリット氏が会見を開いた。同氏は「3月20日にドバイ原油が1バレル158ドルまで急騰したが、国内ディーゼルと汽油(ガソリン)の価格は依然として管理下にある」と説明した。
エネルギー省が比較に出したのはマレーシアだ。マレーシアは長年、石油輸出国として燃料補助金制度を持っているが、近年の補助金改革でリテール価格が上昇している。エネルギー省はこれを根拠に、タイの補助金政策の成果を強調した。
エネルギー安定化基金の実態
タイのディーゼル価格が低く抑えられている背景には「エネルギー安定化基金(Fuel Price Stabilization Fund)」がある。製油所から価格安定化基金に拠出が行われ、消費者価格との差を補填する仕組みだ。
しかし2026年3月時点で、この基金は約200億バーツ(約840億円)の赤字となっており、1日2,000百万バーツの支出が続いていた。価格上限をリッター33バーツに設定していたが、この上限を維持するための負担が急増していた。
補助金財源がいつまで持つかについて、副局長は「段階的な補助縮小を複数回実施する」と述べたが、具体的なタイムラインは「政策次第で不明」とした。
実情と価格上昇の波紋
エネルギー省の「マレーシアより安い」という主張には背景がある。タイは原油のほぼ全量を輸入に依存しており、国内精製コストも上昇した。スタンドでは定量制限が続き、長蛇の列が慢性化していた。
実際の市場では、多くのスタンドが臨時の給油制限(1回20〜30リッター)を設けており、大型車・農業機械・緊急車両は優先給油の扱いとなっていた。エネルギー省が「価格は安い」と言っても、物理的に燃料が手に入りにくい状況が続いていた。
近隣国との比較という文脈
タイが「マレーシアより安い」と言う背景には、国内向けの政策説明という側面がある。燃料価格の上昇と品不足に対する国民の不満が高まる中で、「まだ周辺国よりいい状況だ」という文脈で語られた。
ただしマレーシアのディーゼル価格は補助金改革前後で大きく変動しており、比較時点の価格や補助金有無によって数値は変わる。また燃料の「価格」と「入手可能性」は別問題であり、スタンドに行列ができる状況は単純な比較では捉えきれない課題だ。
中東情勢の長期化が予測される中、タイ政府はその後、補助金の段階的縮小と需要抑制策を組み合わせた新たな価格政策を検討していくことになる。