AirAsia創業者・CEOのトニー・フェルナンデス氏(Capital Aグループ代表)が2026年5月22日、タイ空港公団(AOT、Airports of Thailand)が検討する国際旅客サービス料(PSC、Passenger Service Charge)の引き上げ案に強く反対する立場を表明した。フェルナンデス氏は「タイの観光産業に災害(disaster)をもたらす」と警告し、特にLCC(格安航空会社)を狙い撃ちにする料金体系を批判。引き上げ案の実施を最低1年延期すべきと求めた上で、AOTが旅客料金以外にカーゴ事業・整備事業など他の収入源を開発するよう提案した。世界の航空業界が燃料高+運営コスト高で苦境にある中、PSC引き上げは需要保護に逆行する施策との立場。
トニー・フェルナンデス氏の発言
AirAsiaの創業者であり、Capital Aグループの最高経営責任者(CEO)を務めるトニー・フェルナンデス氏(Tony Fernandes)は、AOTのPSC引き上げ計画について次のような発言を行った。
「最も重要なのは需要の保護だ」(The most important thing is to protect demand)という基本姿勢を強調し、すでに高い燃料コストでチケット価格が押し上げられている旅客に、さらなる料金負担を課すべきではないと主張した。
「もし航空会社が(この料金で)苦しめば、それはタイ観光業にとっても災害だ」(it is also a disaster for Thai tourism)というのが、彼の警告の核心となる。AirAsiaはタイで最大級のLCCで、ドンムアン空港を拠点に国内線・国際線を運航しており、タイ観光業界への影響力が大きい立場からの発言として注目を集めた。
PSC引き上げ案の中身
タイ空港公団(AOT)が検討するPSC(Passenger Service Charge)引き上げ案の詳細は、現時点では正式発表前の段階にあり、具体的な金額・実施時期は公表されていない。
PSCの現状を整理すると、PSCは旅客がチケット代と別途支払う空港使用料、国際線出発便で1人当たり700バーツ、国内線出発便で1人当たり100バーツが標準、空港の運営・施設維持費に充てられる、空港会社(AOT傘下のスワンナプーム・ドンムアン・チェンマイ・プーケットなど主要6空港)に直接入る、というもの。
引き上げ案は、国際線PSCを700バーツから800-900バーツ規模に引き上げる検討とされ、観光客1人当たり100-200バーツの追加負担となる見込み。これは家族4人の旅行であれば400-800バーツ(約2,000-4,000円)の追加コストに相当する。
LCC(格安航空会社)を狙い撃ちか
フェルナンデス氏の批判の核心は、PSCの料金体系がLCCに不利な設計になっている点。
LCCのビジネスモデルの特徴として、チケット価格をフルキャリア(タイ航空・全日空・JALなど)より大幅に低く設定、機内サービス・座席指定・荷物預けは別料金、稼働率を高めて低単価で運用、空港でのターンアラウンド時間が短い、設備利用は最低限(エアブリッジ非使用・チェックインカウンター少数等)などがある。
ところが、PSCの徴収はチケット代に対する比率ではなく、旅客1人当たりの定額。同じ路線・同じ空港の利用でも、3,000バーツのLCCチケットでも10,000バーツのフルキャリアチケットでも、PSCは同じ700バーツ。これは「LCCのチケットコストに対するPSC比率が23%、フルキャリアの7%」という不均衡を生み、結果としてLCC利用客の家計負担率が大きくなる構造になっている。
代替の収入源としての提案
フェルナンデス氏は、PSC引き上げに頼らずAOTが収入を増やす方法も提案した。
代替収入源として彼が指摘した分野は、カーゴ(貨物)事業の拡大(電子商取引と国際物流が拡大する中、空港カーゴ施設の付加価値化が可能)、整備(MRO、Maintenance Repair and Overhaul)事業の強化(航空機整備の拠点機能をタイで強化)、リテール・商業施設の拡張(空港内ショッピング・レストラン・ラウンジの収益化)、第3者運営契約(外国空港運営との提携収入)、不動産事業(空港隣接地の開発)などがある。
これらは旅客への直接負担を増やさずに収益拡大できる手段で、世界の主要空港(シンガポール・チャンギ、香港、ソウル・インチョン等)で実証済みのモデル。タイのAOTもこれらの分野で潜在的な伸び代が大きいとされる。
タイ航空業界の現状と苦境
PSC引き上げ議論が出てきた背景には、タイ航空業界全体の苦境がある。
業界の主な課題として、ジェット燃料価格の高止まり(2025-2026年で1リットル25-35バーツ水準)、3月のホルムズ海峡封鎖期間の燃料危機で航空各社が一時的な減便、タイ国内空港の混雑(スワンナプーム年間8,000万人超)、観光客の長距離移動需要の不安定さ(中東情勢・経済情勢・観光ビザ条件変更)、中国系LCCの新規参入による競争激化が挙げられる。
タイ航空(TG)は5月に燃料危機を受けて5月運休7路線(日本線含む最長10月まで)を発表しており、フルキャリアも厳しい状況。フェルナンデス氏の警告は、この業界全体の苦境を背景にした切実な訴えといえる。
タイ観光業界の対応
タイ観光産業協会・タイ旅行業協会・タイホテル協会などは、観光客の負担増が観光競争力を低下させる懸念を表明している。タイの主要競合観光地(ベトナム・マレーシア・インドネシア・カンボジア)の空港使用料との比較で、タイが既に高い水準にあるため、さらなる引き上げは「観光地としての価格競争力」を失わせると指摘している。
タイ観光相のスラサック氏は5月21日に「入国税(上陸料)を300バーツ超に引き上げ検討」とも発言しており、PSC引き上げと併せれば、観光客1人当たりの追加負担はかなり大きくなる懸念がある。両政策が連動して実施されれば、タイ観光業の競争力低下は避けられない。
続報
AOTによるPSC引き上げ案の正式発表時期、引き上げ幅、実施日、AirAsia以外の航空会社(タイ航空・バンコクエア・タイ・ベトジェット等)の反応、タイ運輸省・観光省の調整、最終決定までのスケジュールなどは今後の続報で明らかになる見通し。


