タイ・ナコンラチャシマ県(通称コーラート)パークチョン郡クランドン町ムー1のパンガアソック村で、2026年5月に入って連続降雨で雨季が本格化したことを受け、村裏のチーク林にヒラタケ(เห็ดโคน、別名シロアリ茸)が大量発生し、住民が朝から森を回って採集、市場での販売価格が牛肉・豚肉・魚を超える500バーツ/kgとなり、1日数千バーツの臨時収入を得る状況が広がっている。タイの雨季は野生キノコの稼ぎ時で、人工栽培が困難なヒラタケは特に高値で取引される地域特産品。先に報じたトラン県の雨季セメックキノコ200B/kgよりさらに高単価で、雨季開始タイミングと地域の森林環境次第で「歩く銀行口座」となる興味深い生活経済の構造が浮かび上がる。
パークチョン郡パンガアソック村のヒラタケ採集
雨季の野生キノコ採集に取り組んでいるのは、コーラート県パークチョン郡クランドン町ムー1のパンガアソック村に住むウィロート・ワナサンティア氏(46歳)。
ウィロート氏は2026年5月初旬から連続して降雨が続き、湿度が一気に上がったことで、村裏のチーク林に大量のヒラタケが地中から生え出ているのに気づいた。早朝から森を回って採集し、家族の食卓に並べる分を確保した後、残りを市場で販売することで臨時収入を得ているという。
採集して2日間で得た量は数キロに及び、ピーク時には1日で数千バーツの収入になる。タイの農村部の月収相場(8,000-15,000バーツ)と比較すると、雨季の数週間で月収を稼ぎ出す計算で、生活コストの軽減効果も大きい。
価格帯の階層
ヒラタケの市場価格は、生育段階と見た目で大きく異なる。
販売価格の階層は以下のとおり。
| 状態 | 価格(kgあたり) |
|---|---|
| 大型・つぼみ状の良品 | 500バーツ |
| 大型・既に開いた | 300バーツ |
| 開いて小ぶり | さらに安め |
つぼみ状の良品は食感も良く、料理での歩留まりが高いため、最高値が付く。一方、開ききって時間が経ったものは食感が落ちるため値段も下がる。
参考までに、タイの市場における牛肉・豚肉・魚の価格は、牛肉が約250-300バーツ/kg、豚肉が150-200バーツ/kg、ティラピア(タイで一般的な淡水魚)が80-120バーツ/kg。ヒラタケの500バーツ/kgは、これらをすべて上回る高単価となる。
ヒラタケ(เห็ดโคน)とは何か
タイ語で「เห็ดโคน」(ヘット・コーン、太鼓型キノコ)と呼ばれるのは、学名Termitomyces属に属する野生キノコ。「シロアリ茸」とも呼ばれ、シロアリ(ปลวก)の巣穴の近くに自生する珍しい菌類だ。
ヒラタケの特徴を整理すると、雨季の5-10月だけ自生する季節限定品であり、シロアリの巣穴と共生する複雑な菌類で、人工栽培は世界的に成功例がない。野生採集のみのため流通量に限界があり、味は肉のような歯ごたえと強い旨味を持ち、タイ料理の定番(トムヤム・カレー・炒め物・スープ)に重宝されている。
タイで一般的に知られた「茸シーズン」の代表で、雨季のたびに村人が森に分け入り、地元市場へ並ぶ風景が東北部・北部の風物詩となっている。
地域別の野生キノコと価格差
| 地域 | 主なキノコ | 学名・通称 | 価格帯 |
|---|---|---|---|
| 北部(チェンマイ) | เห็ดถอบ | 土キノコ | 300-400バーツ/kg |
| 東北部(コーラート) | เห็ดโคน | ヒラタケ・シロアリ茸 | 300-500バーツ/kg |
| 南部(トラン) | เห็ดเสม็ด | セメックキノコ(ユーカリ林に自生) | 200バーツ/kg |
| 中部 | เห็ดเผาะ | エンドウマメ型キノコ | 200-300バーツ/kg |
5月18日に報じたトラン県のセメックキノコは200バーツ/kgで、住民数百人が一斉に採集する規模だった。今回のコーラート ヒラタケは500バーツ/kgで、より高単価。地域ごとの森林環境(チーク林・ユーカリ林・落葉樹林・シロアリの生息環境)が、キノコの種類と価格を決める仕組みになっている。
人工栽培困難の理由
ヒラタケの高単価が維持される最大の理由は、人工栽培ができないこと。
シロアリの巣穴と密接に共生する菌類であるため、巣のないところには生えない。シロアリのコロニーを人工的に作って、その近くで栽培する研究は1990年代から東南アジアの大学・農業研究所で行われてきたが、商業的成功例は確認されていない。
これに対して、シイタケ・エノキ・マッシュルーム・ヒラタケ(平茸、別種)などは人工栽培が確立しており、kg単価100-200バーツで大量供給される。「野生のヒラタケ(เห็ดโคน)」と「人工栽培のヒラタケ(別種)」は混同されやすいが、タイ語の市場では明確に区別される。
採集と販売の現場経済
村人がヒラタケ採集で得る収入は、雨季の限定期間に集中する。
採集・販売の典型的なフローは、まず雨季が始まる5-6月の初雨後に森に分け入り、シロアリの巣穴周辺を確認、地中から生え出るキノコを採集する。村人は朝3-5時から森に出るのが定番で、日の出前の涼しい時間帯に効率的に採集する。採集量は数百グラム-数キロで、家族の食卓分を確保した後、地元市場・道路沿いの直売・近隣の食堂への販売で現金収入を得る。期間は雨季のピーク(5-8月)に集中し、雨が止む11月以降は採れなくなる。
タイの東北部・北部の農村部では、雨季のキノコ収入は「歩く銀行口座」と呼ばれ、米作の本格期(7-9月)を前にした重要な現金収入源として機能してきた。子どもの学用品購入、農機具修理、医療費の補填などに充てられるケースが多い。
観光客向け料理としてのヒラタケ
ヒラタケはタイ料理の高級食材としても扱われる。
観光客向けレストランで提供されるヒラタケ料理の主な例として、ヒラタケのトムヤム(เห็ดโคนต้มยำ、1人前350-500バーツ)、ヒラタケのガッパオ炒め(ผัดกะเพราเห็ดโคน、1人前250-400バーツ)、ヒラタケと魚のソース炒め(เห็ดโคนผัดน้ำมันหอย、1人前300-500バーツ)などがある。これらは雨季限定メニューとして登場し、ファインダイニング系レストランでは「Wild Termitomyces from Korat Forest」のような英語表記で観光客にアピールされる。
タイ料理を学ぶ料理学校でも、ヒラタケの調理法は重要なカリキュラムの一部となっている。
続報
2026年雨季のコーラート・パークチョン地区のヒラタケ採集量の確定、市場流通量、観光業への波及、輸出の有無、他の県(チェンマイ・チャイヤプム・ウドンタニーなど)の雨季キノコ採集状況などは今後の続報で明らかになる見通し。


