タイ・チョンブリ県パナットニコム郡(Phanat Nikhom)で2026年5月22日、SNSプラットフォームX(旧Twitter)経由で覚醒剤メタンフェタミン(アイス)を販売し、安物ジーンズに隠して全国の通常宅配便で発送する5人組のオンライン薬物ネットワークが摘発された。パナットニコム警察署+地元行政当局の合同チームが、主犯ジラパット氏(通称Te)をコンドミニアム退去時に身柄確保、押収品は薬物アイス275.5g+資産29.5万バーツ(約135万円)+現金多数。共犯としてバンコク側サプライヤーのトランスジェンダー女性"ベル"、包装担当のジンチョーティ(Oat)+シラプラパー(Jane)、配送実行担当のポンタウィ氏(100g所持)が逮捕された。配送先はナン県、トラン県、ブンカン県などタイ全土に及び、警察は追加メンバーの特定で捜査を継続している。
5人組ネットワークの役割分担
逮捕された5人は、明確な役割分担で薬物販売ネットワークを運営していた。
組織構造を整理すると、ジラパット氏("Te")が主犯で全体の運営+顧客対応を担当、トランスジェンダー女性の"ベル"がバンコク側のサプライヤー役、ジンチョーティ氏("Oat")とシラプラパー氏("Jane")が包装担当でジーンズへの隠匿作業を実行、ポンタウィ氏が配送実行担当で逮捕時に100g所持していた、という体制。
明確な機能分担と通信回線分離(各役割が同じプラットフォームを共有しない設計)は、警察の捜査追跡を困難にする組織犯罪の典型パターン。本件はパナットニコム警察が長期間の内偵を経て一斉摘発に持ち込んだとされる。
本件の最大の特徴は、SNSプラットフォームのX(旧Twitter)を顧客獲得・販売の主戦場として利用していた点。
タイで広がっているSNS薬物販売の手口として、Xの匿名アカウントで「価格・支払い・配送方法」を公開、顧客のダイレクトメッセージ(DM)で個別取引、暗号資産・銀行振込・PromptPayで決済受領、住所を確認した後に通常宅配便で発送、フォロー解除と即時アカウント削除で証拠隠滅、という流れがある。
Xはタイで月間アクティブユーザー1,500万人以上の主要SNSで、警察の監視対象になっている一方、新規アカウント作成が容易で完全な遮断は困難。本件のジラパット氏グループも、複数のXアカウントを回しながら販売を継続していたとみられる。
ジーンズ隠匿の手口
押収現場で警察が驚いたのは、ジーンズの中に薬物を隠匿する具体的な手口。
包装の流れを整理すると、安物のジーンズ(中古衣料品の体裁)を用意、ポケットや縫い目の隙間に小袋詰めしたアイスを縫い込み、ジーンズを畳んで衣料品の小包として梱包、通常の宅配業者(Kerry Express、Flash Express、ThailandPost等)で発送、宅配伝票には「衣料品」「中古衣類」と記載する偽装、というやり方が確認された。
タイの宅配業界では、衣料品の小包は標準的な検品対象から外れることが多く、X線スキャンを通っても薬物が検出されにくいケースがある。ジラパット氏グループはこの「盲点」を活用していた。
配送先はタイ全土
ジラパット氏グループの顧客基盤は、タイ全土の若年層・薬物常用者で構成されていた。
主な配送先県として、北部のナン県(チェンマイ周辺の山岳地帯)、南部のトラン県(プーケット近郊)、東北部のブンカン県(ラオス国境)、その他の地方都市にも展開していた。各県の若年層・パーティーシーン・大学周辺の薬物需要層をターゲットに、SNS経由で取引が成立していたとみられる。
タイ警察は「全国規模の販売ネットワーク」と位置づけ、各県の地元警察と連携して顧客リストの追跡を進めている。買い手側の捜査が進めば、200-500人規模の購入者ネットワークが浮かび上がる可能性がある。
アイス275.5gと資産29.5万バーツを押収
捜査での押収品は以下のとおり。
主な押収品として、覚醒剤メタンフェタミン("アイス")275.5g、資産+現金29.5万バーツ(約135万円)、配送担当ポンタウィ氏所持分100g、X上のアカウント情報・販売記録(押収済デバイス)、配送伝票・梱包資材、銀行振込履歴・暗号資産取引履歴がある。
「アイス」(タイ語でไอซ์)は結晶状のメタンフェタミンで、ヤーバ(錠剤型のメタンフェタミン)よりも純度が高く、価格も高い。275.5gは末端価格1g当たり1,500-3,000バーツ程度として、約40-80万バーツ(約200-360万円)相当。
タイのオンライン薬物販売の規模
タイ全体のSNS経由の薬物販売は、警察庁の推定で年間数百-数千億バーツの規模に達するとされる。
業界の主な傾向として、SNSプラットフォーム(X、TikTok、Facebook、Telegram、Line)で取引が広がる、配送業者の宅配便を悪用、暗号資産・電子決済で資金洗浄を回避、若年層の薬物常用化が加速、地方の薬物入手経路を都市部から拡張、という構造。
タイ警察+CCIB(サイバー犯罪取締局)+AMLO(マネーロンダリング対策事務所)+宅配業界の合同で対策を強化しているが、新規取引方式の登場に追いつかない状況が続いている。本件のような末端ネットワーク摘発を積み重ねつつ、SNSプラットフォーム側の協力体制構築が課題となっている。
続報
ジラパット氏グループの過去の取引総量、顧客リストの全容、SNSアカウントの追加摘発、Xプラットフォームへの公式要請、地方各県での連動摘発などは今後の続報で明らかになる見通し。