タイ警察がバンコクの高級コンドミニアムを2026年5月22日午後4時に踏み込み、ナイジェリア人6人組のロマンス詐欺グループを摘発した。グループは高齢者を主要な標的とし、性的な発言を含む「セクシーチャットスクリプト」(สคริปแชทเสียว)で被害者を口説き、銀行口座情報を聞き出す手口を用いていた。タイ警察総監のキッタラット・パンペット警察大将(พล.ต.อ.กิตติ์รัฐ พันธุ์เพ็ชร์)、副警察総監のサムラン・ヌアンマー警察大将+タナー・チュウォン警察大将など警察庁最上層部が直接指揮し、バンコク首都警察本部のシアム・ブンソム警察中将以下の現場運用部隊が踏み込んだ大規模摘発。ノンタブリ・アトミ前で5月20-21日に逮捕されたナイジェリア人ロマンス詐欺事件に続く第2弾の摘発となった。
警察庁最上層部の指揮系統
本件は、タイ警察の最上層部が直接指揮を執る大規模摘発として位置づけられている。
警察総監のキッタラット・パンペット警察大将を頂点に、サムラン・ヌアンマー副警察総監(พล.ต.อ.สำราญ นวลมา、外国人不法滞在取締センター長を兼務)、タナー・チュウォン副警察総監(พล.ต.อ. ธนา ชูวงศ์)、ジラポップ・プリデート警察補佐中将(พล.ต.ท.จิรภพ ภูริเดช)、クリッサダー・カンチャナロンコーン警察補佐中将(พล.ต.ท.กฤษฎา กาญจนอลงกรณ์)が並列で指揮を取り、バンコク首都警察本部のシアム・ブンソム警察中将(พล.ต.ท.สยาม บุญสม)、ワサン・テチャアッカーケセム副警察中将(พล.ต.ต.วสันต์ เตชะอัครเกษม)、ティーレデート・タムスティー副警察中将(พล.ต.ต.ธีรเดช ธรรมสุธีร์、薬物取締担当)が現場運用を担当した。
警察庁最上層部が一堂に名前を連ねる摘発は珍しく、タイ警察がナイジェリア系ロマンス詐欺を「組織的取締対象」として明確に位置づけたことを示している。
「セクシーチャットスクリプト」の手口
本件の手口で最も注目を集めたのが、ナイジェリア人グループが使っていた「セクシーチャットスクリプト」(สคริปแชทเสียว)と呼ばれる定型文集。
警察の調べでは、高齢者(主に60-70代以上の女性)をFacebook・LINE・Instagram・Tinder等のSNSで標的に定め、欧米系外国人を装った偽プロフィール写真を使って接近する。その後、用意された定型スクリプトに沿って親密な関係を作り上げ、性的な発言を含む「セクシーチャット」で被害者を性的興奮状態に追い込んでから、銀行口座情報・暗証番号・カード情報を聞き出す手口だ。
タイ語のニュース報道では「ประโยคเดียวเสียวถึงบัญชีธนาคาร」(ワンセンテンスで銀行口座まで興奮させる)と表現されており、グループ内では成功率の高いスクリプトが手順書化されて共有されている実態が明らかになっている。
ロマンス詐欺と高齢者の関係
ロマンス詐欺の最も典型的な被害層は、配偶者を亡くした・離婚した・独居している高齢者(特に女性)。
タイの高齢者のSNS利用は近年急速に拡大しており、Facebook・LINEで子供・孫・友人と日常的に連絡を取る世代が60-80代まで広がっている。一方で、欧米系外国人の偽プロフィール・甘い言葉・親密な関係への憧れに対する免疫が弱く、ロマンス詐欺の格好の標的となる。
被害額の典型として、初期の少額送金(5,000-50,000バーツ)から始まり、繰り返しの「投資機会」「医療費」「税関手数料」などの名目で送金を要求、最終的に数十万バーツ-数百万バーツに至るケースが多い。タイ警察庁の統計では、ロマンス詐欺の年間被害額は2024-2025年で50-80億バーツに達するとされ、高齢者狙いの組織犯罪として国家レベルの取締が強化されている。
ナイジェリア系犯罪組織のタイ進出
タイ国内のナイジェリア系犯罪組織は、2010年代から徐々に拡大、現在は500-1,000人規模が活動しているとされる。
主な活動拠点は、バンコク中心部(スクンビット・サパーンクワーイ・プラカノン)、ノンタブリ・ナンタブリの郊外コンドミニアム、パタヤ・プーケットの観光地。活動分野はロマンス詐欺、暗号資産詐欺、ATMマー(他人カードでの現金引出)、偽造書類、就労ビザの不正取得など。タイ警察、入国管理局、CCIB(サイバー犯罪取締局)、AMLO(マネーロンダリング対策事務所)が合同で取締を継続している。
本件のバンコク高級コンドミニアム摘発は、ナイジェリア系犯罪組織の拠点が「観光ビザでの短期滞在型」から「長期定住型」に進化していることを示すものとされ、入国管理局の対応強化議論にもつながる事案。
タイ警察の取締強化の流れ
タイ警察がロマンス詐欺・スキャムセンター・外国人不法滞在を全国一斉に取り締まる流れは、2025-2026年で大きく加速している。
主な摘発として、5月17日にサケオ警官5人が中国人5人を不法拘束(身代金30万バーツ要求事件)、5月20-21日にノンタブリATMでナイジェリア人24歳ロマンス詐欺逮捕(携帯42台押収+タイ人共犯34歳起訴23件)、5月21日にCIB23地点16県中国人不法入出国斡旋+コール詐欺22人逮捕、5月22日にバンコク高級コンドでナイジェリア人6人ロマンス詐欺(本件)、5月23日にタイ人夫婦逮捕(タイ人カンボジア「地獄ビル」誘引+電気拷問+50万B身代金)などが挙げられる。
5月だけで国際組織犯罪関連の大型摘発が10件以上発生する異例の月で、タイ警察庁の本気度が浮き彫りになっている。
続報
ナイジェリア人6人の身元・滞在ビザ・過去の摘発歴、被害者の数・国籍・被害総額、「セクシーチャットスクリプト」の入手経路、関連するナイジェリア系犯罪組織の全体像、追加摘発の有無などは今後の続報で明らかになる見通し。



