タイ・スラタニ県パンガン島で2026年5月23日朝6時、警察300人超を投入した大規模強制捜査「ทลายนอมินีต่างด้าวเกาะพะงัน เฟส 2」(パンガン島ノミニー外国人摘発フェーズ2)が実施され、外国人ノミニー法人32社を一斉捜査、外国人22人を逮捕、40ライ超(約64,000m²)・評価額2億バーツ超(約9億円)の土地を押収した。サムラン副警察総監(外国人不法滞在取締センター長)が指揮、サムイ島地裁が発行した36カ所の捜索令状に基づき、39件の刑事事件で訴追を進める方針。フェーズ1(5月13日、150百万バーツ土地+27社摘発)から10日でフェーズ2の倍規模となり、タイ政府によるパンガン島ノミニー一掃戦略が本格段階に入った。
フェーズ2の規模はフェーズ1の倍
フェーズ2の摘発結果は、フェーズ1(5月13日)を大きく上回る規模となった。
数値の比較:
| 指標 | フェーズ1(5/13) | フェーズ2(5/23) |
|---|---|---|
| 摘発箇所 | 32箇所 | 32社+36カ所捜索令状 |
| 逮捕者 | 2人 | 22人 |
| 押収土地 | 37件・150百万バーツ | 40ライ・2億バーツ |
| 刑事事件 | 数件 | 39件 |
| 動員警察 | 266人 | 300人超 |
10日でフェーズ1の倍以上の規模に拡大した。外国人ノミニー法人の実態解明が進み、より多くの企業・人物が捜査網に入った形だ。
警察300人投入の指揮系統
捜査の指揮系統はタイ警察庁レベルから構成された。全体指揮はサムラン・ヌアンマー副警察総監(พล.ต.อ.สำราญ นวลมา、Pol.Gen. Samran Nuanma)で、外国人不法滞在取締センター長を兼ねる立場。現場運用はノプシン・プーンサワット警察庁付き司令官(พล.ต.ท.นพศิลป์ พูลสวัสดิ์、Pol.Lt.Gen. Nopsin Phunsawat)が外国人取締実動部隊長として担当した。
両指揮官は、5月13日のフェーズ1も指揮しており、パンガン島ノミニー摘発の一連の作戦を統括する形だ。タイ警察庁の特別作戦として位置づけられ、地方警察(スラタニ県警)を凌駕する全国レベルの捜査体制が組まれている。
摘発対象は法律事務所も含む
強制捜査の対象には、ノミニー設立を支援する法律事務所も含まれている。フェーズ1の構成を参考に内訳を整理すると、法律事務所5社がノミニー設立支援のスキーム提供で対象になり、コンサルタント事務所も数社、ノミニー企業本体27社+追加捜査対象、土地区画はフェーズ1で37件、フェーズ2で追加押収という形になる。
法律事務所の摘発は、タイのノミニー問題の構造を変える可能性がある。これまでは「外国人と協力するタイ人ダミー株主」だけが処罰対象になりがちだったが、ノミニー設立を主導したプロのアドバイザー(弁護士・会計士)も刑事責任を問う形に進展している。
押収証拠から見える資金循環
警察が押収した証拠は、ノミニー法人の運営構造を明示するものが多い。法人登記書類・定款、株主総会議事録、土地証書(チャノット・タイトル)、土地購入契約書・賃貸契約書、管理委託契約書(タイ人名義所有者から外国人実質運営者への業務委託)、銀行口座記録・取引履歴、国際送金書類(海外からの送金履歴)が一括で押さえられた。
これらの証拠は、表向きはタイ人所有・運営の体裁でも、資金は外国人から流入し、運営の実質的決定権も外国人が握っているという「実態と書類のズレ」を裏付けるもの。ノミニー認定に直結する強力な証拠となる。
DSIが並行で34社を調査
警察庁の作戦と並行して、タイ特別捜査局(DSI、กรมสอบสวนคดีพิเศษ)も独自にパンガン島・サムイ島の34社を「ノミニー疑い」として調査している。
DSIは法務省管轄の特別捜査機関で、国家安全・経済犯罪・組織犯罪を専門に扱う。警察庁とは独立した捜査権を持ち、大型ノミニー・国際的マネーロンダリングに強みを持つ。
警察庁の現場摘発(逮捕・押収)とDSIの捜査(資金循環・国際送金追跡)が相互補完する形で、パンガン島の外国人投資ネットワーク全体を解明する戦略となっている。
パンガン島の外国人保有率68%という実態
フェーズ1で警察が発表したデータでは、パンガン島の企業の68%が何らかの形で外国人保有に関連していた。報道ベースで国籍別の内訳を見ると、イスラエル人投資家が4,000人以上島内に滞在しホテル・ヴィラ・ツアー業を展開、西欧人(英・独・仏・蘭)は長期滞在型の投資家層、ロシア人は2022年以降に増加し不動産購入が多い。中国人はホテル・観光客向け飲食店、米・豪はダイビング・マリンスポーツ業が中心となる。
パンガン島はフルムーンパーティで世界的に知られる観光地で、土地・物件価格が観光ブームで急騰してきた。タイ人地元住民が手放した土地を外国人投資家がノミニー経由で取得する構造が、20年以上続いてきた。
アヌティン首相の「全国スキャン」指示
タイ・アヌティン副首相(現首相)は、フェーズ1直後の5月14日にパンガン島を視察し、全国規模での「ノミニースキャン」を指示した。指示の核は、全国の外国人関連企業11,426社の調査、パンガン・サムイ・プーケット・パタヤ等の観光地を重点に置くこと、法律事務所・コンサルタントの摘発対象化、DSI・警察・移民局・労働省の連携体制構築、投資家ビザ条件の厳格化検討、の5点。
「海岸は国民のもの」と明言したアヌティン首相の発言は、外国人投資家の土地保有規制を強化する政策方向を示すもの。フェーズ2の摘発はこの首相方針を現場で具体化した形だ。
タイの外国人事業法と土地所有規制
タイのノミニー摘発の法的根拠は、外国人事業法(พ.ร.บ.การประกอบธุรกิจของคนต่างด้าว B.E. 2542、1999年制定)。同法第1条で外国人(individual・法人とも)の事業活動を3カテゴリーに分類し、カテゴリーA(新聞・米作・農業・漁業・土地売買・タイ仏像製造等)は完全禁止、カテゴリーB(観光業・建設業・卸売業等)は条件付き許可、カテゴリーC(製造業の一部・サービス業の一部)は自由化されている。カテゴリーA・Bでは外国人持株比率を原則51%未満に制限、違反時は法人解散・財産没収・最高3年の拘束が課される。
加えて、土地法では「土地所有はタイ国民のみ」が原則で、外国人個人の土地保有は厳格に禁じられている(コンドミニアム部屋は49%まで可能、長期賃貸は最長30年)。ノミニーは、この土地所有規制を回避する手口の典型例となる。
続報
逮捕された外国人22人の国籍内訳、ノミニー実質所有者の身元、押収土地の今後の処分、フェーズ3摘発の有無、DSI捜査の追加発表、アヌティン首相の全国スキャン進捗などは今後の続報で明らかになる見通し。

