タイ東部サケオ県、カンボジア国境のすぐ手前にあるコークスーン郡ノンマークムン村のシララタンパッタナ地区。5月19日の深夜、村人から「不審な車が走り回っている」と通報を受けた軍と行政官、村警備隊(ชรบ.)が一帯のサトウキビ畑を囲んだ。出てきたのは1台のピックアップトラックと、その荷台にぎゅう詰めにされていた中国人・パキスタン人合わせて16人と、案内役のタイ人ブローカー1人だった。
車はインドのTATA製、ナコンサワン県登録のナンバープレート。車内からは海外用の携帯電話と外国製SIMカードが大量に押収された。コールセンター詐欺の「商売道具」だ。
摘発に動いたのはブラパ軍管区下のコークスーン特殊部隊と、第12タハーンパッタナ連隊1205部隊。地元行政官と村長、ชรบ.も加わった、いわば国境地帯ならではの寄せ集めチームだ。
容疑者たちは国境の向こう、カンボジア・ポイペト方面から越境してきたと見られている。ポイペトと言えばタイ人ギャンブラーの日帰り先として知られたカジノ街だが、近年は中国系コールセンター詐欺の集積地としての顔のほうが大きい。カンボジア政府が中国の圧力もあって取締を進めるたびに、容疑者がぞろぞろとタイ側へ逃げ込んでくる、という現象がここ数年続いている。
興味深いのは、彼らが堂々と国境ゲートを越えるのではなく、サトウキビ畑のような死角を狙ってきたことだ。サケオ県の対カンボジア国境は広い。畑とキャッサバ畑と灌木がだらだら続く中、舗装路を外れれば視界はぐっと狭くなる。そこを地元の人間が手引きするのだから、検問所ですべて止めるのはどう考えても無理がある。
実際、この種の摘発は最近のサケオ県ではほぼ恒常化している。「ทะลักไม่หยุด(止まらず溢れてくる)」というKhaosodの見出しの一語が、その実感を妙によく表している。
押収された電話とSIMの分析がこれから始まる。通話履歴が辿れれば、被害者の名簿と、ポイペト側に残る「兄貴分」の輪郭が見えてくるかもしれない。タイ国内で詐欺の被害に遭った日本人駐在員の話も時々耳にするだけに、この種の摘発は地味だが地続きの話に感じる。