タイ陸軍第1軍管区が、タイ・カンボジア国境のサケオ県コークスーン郡ノンマークムン村(タンボン)に派兵し、カンボジア人がタイ側に越境して農業に従事していた問題への対応を進めている。タイ陸軍報道官ウィンタイ・スワーリー陸軍少将が5月18日に発表した。問題のエリアは双方の境界が明確に画定されていない「グレーゾーン」で、タイ住民から「不法侵入の越境農業を許すな」との抗議を受けて、陸軍が両国の住民と対話を重ねている。タイ住民が要求するフェンス(鉄柵)設置については、(a)双方が認める境界線が未確定のため一律設置不可、(b)タイが事実上管理するエリアには有刺鉄線設置済み、と説明。タイ陸軍第2軍管区担当地区だけでも400km超に及ぶ広大な国境管理の難しさが浮き彫りになった。
問題の発生地—サケオ県コークスーン郡ノンマークムン
問題が発生しているのは、タイ東部サケオ県コークスーン郡ノンマークムン(Non Mark Mun)村のタイ・カンボジア国境地帯。
この地域は、(a)カンボジアのバンテイメンチェイ州に隣接、(b)歴史的に両国の境界が明確に画定されていない「未確定地帯」、(c)雨季には農業に適した平地が広がる、という特性を持つ。
カンボジア住民が、(i)タイ側に越境して水田・キャッサバ・トウモロコシ等の作付け、(ii)収穫物を自国に持ち帰る、(iii)タイ住民の畑とトラブルになる事例も、報告されてきた。
タイ住民は陸軍・地方当局に「カンボジア人の越境農業を許すな」「正式な国境フェンスを設置せよ」と抗議を続けていた。
陸軍第1軍管区の対応
5月18日、ウィンタイ陸軍報道官が会見で説明した陸軍の対応は次の通り。
第1に、陸軍第1軍管区が同エリアに兵力を派遣。現地のカンボジア人とタイ人住民の双方と対話を実施。
第2に、当該エリアは双方の領有権が確定していないため、(i)カンボジア人にもタイ人にも一時的に立入禁止を要請、(ii)農作業の継続を見合わせるよう要請。
第3に、過去にあった両国軍隊間の小規模な戦闘以降、警戒レベルを引き上げ。
第4に、フェンス設置の住民要求については、双方が認める境界線がないため一律には実施不可。タイが事実上管理しているエリアには既に有刺鉄線が配置されている。
第5に、第2軍管区担当地区だけでも400km超の国境線で、画一的な管理は時間が必要。
タイ・カンボジア国境問題の歴史
第1に、プレアヴィヘア寺院問題(2008-2011年)。両国の領有権主張で軍事衝突。
第2に、サケオ県の境界未確定地帯。複数箇所で類似の越境農業・住民トラブル。
第3に、ケムマラート(コークスーン)エリアでの軽微な軍事接触。両国軍隊が国境付近で小規模な銃撃戦・睨み合いを度々経験。
第4に、密輸・人身売買・違法越境者。カンボジア側からタイへの違法越境者は、農業従事者だけでなく、(a)違法労働者、(b)カジノ顧客、(c)犯罪逃亡者、など多様。
タイ・カンボジア両政府は、(i)合同境界委員会(JBC)で境界画定交渉を続けるが進展遅延、(ii)2024年以降の中国仲介で関係改善の動き、(iii)2026年は両国の国境管理協力協定が見直し期、という局面にある。
カンボジア側の責任も指摘
「カンボジア側の軍は、自国住民に対して境界線についての理解を促す必要がある。住民が境界の現状を正しく理解していないと、トラブルが再発する」と述べた。
両国軍隊間では、(a)定期的な国境会議、(b)合同パトロール、(c)情報共有、を行っているが、住民レベルでの境界認識は両国とも徹底されていない。
タイ住民の生活への影響
ノンマークムン村のタイ住民の生活には、次のような影響が出ている。
第1に、自分の畑が荒らされる被害。カンボジア人が境界を越えて作付けすることで、タイ住民の畑作物が踏み荒らされる事例。
第2に、収益機会の減少。カンボジア人が安価な労働力で作付けすることで、タイ住民の農作物の市場価格が下落。
第3に、治安への不安。境界が曖昧なため、カンボジア人犯罪者・違法越境者も入りやすい。
第4に、行政コストの増加。トラブル対応のため陸軍・警察が常駐し、地方財政の負担も大きい。
関連背景
タイ駐在員家庭にとって、国境問題は直接的な影響は小さいが、いくつかの間接的影響を持つ。
第1に、東部観光地(パタヤ・チャンタブリ・トラート)への観光ルート。サケオ・カンボジア国境の不安定化が、東部全体の治安に影響する可能性。
第2に、カンボジア・ベトナム・ラオスへの陸路移動。日系駐在員でCLMV諸国に出張する場合、サケオのアランヤプラテート(カンボジア国境ゲート)の通行に支障が出る可能性。
第3に、CLMV進出企業のサプライチェーン。タイ・カンボジア間の物流に関わる日系企業に影響。
第4に、タイ国内の対外政策議論。隣国との関係悪化が、タイ国内の政治を硬化させ、外国人ビザ規制等への波及の可能性。
国境管理の今後
タイ・カンボジア国境管理の今後の課題として、以下が挙げられる。
第1に、合同境界委員会(JBC)の早期再開。両国の政治意思次第。
第2に、技術的画定の進展。GPS測量・衛星画像分析・地形図照合による境界の科学的画定。
第3に、両国住民への教育・啓発。境界の現状理解を住民レベルで徹底。
第4に、経済協力による緊張緩和。両国間の貿易・投資・観光交流の強化で、住民レベルの信頼構築。
第5に、第三国(中国・米国・日本)の仲介役割。両国の対話を促す外交努力。
短期的な対策
ウィンタイ陸軍報道官は、住民に対して以下を呼びかけた。
第1に、軍と政府機関からの情報を主に受け取る。SNS等の不確実情報に振り回されない。
第2に、軍が両国で設定した「仮想境界線(เส้นสมมติฐาน)」を理解する。現在は管理境界が変動する可能性あり。
第3に、タイ側の住民の農業地は境界が明確で問題なし。タイ農民は安心して継続を。

