マカサン列車・バス衝突事故(死者8名・負傷者35名超)の捜査で、列車運転士のスヤムポーン氏(46歳)が事故時に(a)規定の制服を着用していなかった(グレーのTシャツ・紺色長ズボン・革靴の私服姿)、(b)監視カメラ映像で事故前の一定時間、運転室にいなかった、ことが新たに判明した。さらに警察への出頭前に、病院のベッドまで散髪師を呼んで髪型を短髪に変更していたことも発覚。タイ国鉄(SRT)の労務管理規律違反が連続して浮上し、組織的な見逃しの構造が明らかになりつつある。タイラート紙が5月18日午後にマカサン警察署からの情報として報じた。
制服未着用と運転室離席—事故時の状況
タイラート紙が報じた捜査関係者の話によると、運転士スヤムポーン氏の事故当時の状況は次の通り。
第1に、制服を着ていなかった。SRTの規定では、運転士は業務時に支給された制服(青系の作業着・制服シャツ・SRTロゴ入り帽子・安全靴)を着用することが義務付けられている。
しかし、事故当時のスヤムポーン氏は、(i)グレーのTシャツ、(ii)紺色の長ズボン、(iii)革靴、という完全な私服姿だった。事故時にいつ・どこで着替えたか、または最初から私服で乗務したかは捜査中。
第2に、運転室に座っていなかった。マカサン駅付近の踏切手前の監視カメラが、事故直前の運転室を撮影。スヤムポーン氏の姿が運転席に確認できない時間帯があった。
監視カメラ映像で確認された具体的な離席時間・場所はまだ公表されていない。警察は「離席理由を含めて詳細調査中」とした。
業務中に運転室を離れることは、SRTの安全規定上、極めて重大な違反。長距離貨物列車の運転士は、(i)機関車の状態監視、(ii)信号確認、(iii)踏切認識、(iv)無線通信の維持、を継続的に行う必要があり、一瞬の離席も許されない。
警察出頭前に病室で散髪、髪型変更
最も衝撃的な事実は、運転士が警察への出頭前に髪型を変更していたことだ。
タイラート紙が報じた詳細は次の通り。
第1に、SRTの上司が、運転士の入院先の病院ベッドまで散髪師を呼び寄せた。
第2に、運転士の髪型が事故時の長めの髪から、警察出頭時の短髪に変わっていた。
第3に、散髪は警察出頭の直前のタイミング。
これらの行動は、(a)身元を変えようとしたのか、(b)「規律ある運転士」として印象付けようとしたのか、(c)単純な散発的な希望なのか、解釈が分かれる。
タイ刑事訴訟法上、被疑者が自身の容姿を変えること自体は違法ではないが、捜査関係者からは「不自然」「証拠隠滅未遂を疑う」との声もある。
同乗者(機関助手)からの聴取も進行中
警察は同日5月18日午後2時から、列車に同乗していた機関助手からの聴取を進めている。
機関助手の証言が、(a)運転士の業務態度(制服着用・運転室在席状況)、(b)薬物使用の認知、(c)事故時のブレーキ操作のタイミング、(d)旗振り員の信号有無、などを裏付けるか・矛盾するか、捜査の核心となる。
スヤムポーン氏とSRTの労務管理規律違反のまとめ
5月15日の事故発生以来、判明したSRTの運転士スヤムポーン氏に関する規律違反は次の通り。
第1に、薬物使用陽性(ヤーバ+大麻の二重検出)。SRTの薬物検査体制が運行前に存在しなかった構造的問題。
第2に、薬物使用の常習性。運転士本人が「毎回複数錠、最近の使用は10日前」と告白。
第3に、2019年(2562年)の薬物使用前科。SRT採用時の身上調査の不備。
第4に、無資格運転の可能性。DRT(鉄道局)への運転免許申請が完了していたか不明(過去報道では懲戒委員会設置)。
第5に、制服未着用(本記事)。私服での乗務。
第6に、運転室離席(本記事)。事故前の一定時間、運転席を離脱。
第7に、警察出頭前の髪型変更(本記事)。証拠隠滅未遂の疑い。
これらは個別の違反ではなく、(i)個人の規律意識の欠如、(ii)組織の見逃し、(iii)管理体制の構造的問題、が複合した結果と言える。
SRT組織責任の追及不可避
これだけ多数の規律違反が一人の運転士に集中していた事実は、SRTの組織責任を強く示している。
第1に、運転士採用時の身上調査の不備。2019年の薬物前科を見逃した責任。
第2に、年次健康診断時の薬物検査の不備。3年間で1回も陽性反応が出なかった構造的問題。
第3に、運行前の制服チェック・着用確認の不備。私服での乗務を許した管理者の責任。
第4に、運行中の運転室在席確認の不備。離席を許した管理者の責任。
第5に、事故後の隠蔽協力の疑い。上司が散髪師を病院に派遣した行動が、組織的な印象操作の一環でないか。
警察庁が「踏切再構築・SRT組織責任追及」の主導を引き受けた以上、SRT総裁・人事部長・運行管理部長まで責任が及ぶ可能性が高い。
関連背景
タイ駐在員家庭にとって、今回判明した運転士の規律違反の連鎖は、次の懸念を生む。
第1に、エアポートレールリンク・BTS・MRTなどの他鉄道事業者の運転士管理体制への疑念。SRTだけの問題か、それともタイの鉄道業界全体に共通する文化か。
第2に、市内バス・タクシー・グラブ運転手の労務管理への疑念。制服未着・規律違反・薬物使用が他の公共交通でも起きていないか。
第3に、スクールバス運転手の信頼性への懸念。子供を毎日預ける相手の制服・態度・薬物検査体制を確認する必要。
第4に、タイ全体の労務管理文化の脆弱性。「上司が散髪師を呼ぶ」という独特の組織文化が、駐在員の現地ビジネスでも遭遇する可能性。
今後の動き
5月20日のSRT総裁の調査完了報告に向けて、警察捜査は集大成段階。次のような展開が想定される。
第1に、SRT総裁・人事部長・運行管理部長の事情聴取。
第2に、運転士の私生活・薬物入手経路の解明。
第3に、機関助手・同僚運転士の証言取得。
第4に、SRT内部の懲戒委員会開催。
第5に、運輸省・鉄道局による全鉄道事業者の労務管理改革指示。





