タイ中銀(ธปท.)のウィタイ・ラタナーコーン総裁は5月18日、住宅ローンのLTV(Loan to Value、担保価値に対する融資比率)の緩和措置を1年延長する、と発表した。当初は今年6月30日に終わる予定だったものを、2570年(2027年)6月30日まで伸ばす。決定したのは中銀傘下の金融機関政策委員会(กนส.)である。
延長されるのは、LTVの上限を100%、つまり頭金ゼロでも融資できる状態にする扱いだ。条件はふたつ。担保物件の評価額が1,000万バーツ未満の住宅では、2件目以降の住宅ローン契約からこの100%融資が使える。担保額1,000万バーツ以上の物件であれば、1件目の契約からそのまま100%融資が認められる。対象になるのは2569年7月1日(2026年7月1日)から2570年6月30日(2027年6月30日)までに新規契約した分という、いつもの「時限措置」の形をとっている。
中銀が延長の理由として挙げているのは大きく2点だ。ひとつは、住宅需要の弱さ。経済の減速で住宅取得意欲が冷え込んでいる、という説明である。もうひとつは中東情勢の悪化で、開発側の建設コストが上振れし、家計の購買力も削られている、という指摘だ。要するに「攻めるための緩和」というよりも、不動産セクターの信頼が崩れないように、息継ぎの時間をもう1年確保した、という性格に見える。
通常時のLTVは、購入する住宅が「何件目か」で頭金比率を変える設計になっていて、投資目的の重ね買いほど厳しくなる。それを「頭金なしでもいい」まで下げる以上、金融システム側のリスクは普通に増える話のはずだ。ところが中銀は今回、システムへの影響を「限定的」だと評価した。理由としては、金融機関側がいまも融資にきちんと慎重で、これまでのところ異常な投機の動きが見えていないから、というものだ。
引っかかるのは「緩和を延ばすけれど投機の兆しはない」と言い切れる点で、これは見方を変えると、緩和してもなお買いが盛り上がっていないということでもある。1年後の2027年6月にこの措置をどうするかは、それまでの不動産取引データと家計債務の動き次第になる。ここで盛り上がらなければ、もう一段別の手を打つ流れが待っているかもしれない。



