タイのピパット・ラチャキットプラカーン副首相兼交通大臣が5月18日午後、マカサン列車・バス衝突事故(死者8名・負傷者35名)への対応として、タイ国鉄(SRT)に対して(a)バンコク中心部への列車運行廃止計画の検討、(b)危険物運送貨物列車の夜間運行制限、(c)死亡者への補償を239万バーツに引き上げ、を指示した。検討結果は5月20日までに取りまとめる方針。バンコク中心部の踏切リスクを根本から解消する構造改革と、被害者家族への手厚い補償という二段構えの対策で、踏切事故再発防止を目指す。在タイ日本人駐在員家庭にとっては、(A)市内踏切渋滞の緩和、(B)バンコク交通網の安全性向上、(C)貨物列車の経路変更による物流への影響、を見極める必要がある。
バンコク中心部への列車運行廃止検討
ピパット交通相がSRTに検討を指示した最大のポイントは、「バンコク中心部(チャンナイ)への列車運行を廃止する」計画の検討だ。
具体的な検討対象:
第1に、貨物列車。マカサン事故の2126号貨物列車(レムチャバン-バンスー間)のような、バンコク中心部を通過する貨物列車のバイパス経路への振替。
第2に、長距離旅客列車。チェンマイ・ノンカイ・ウボン等への長距離列車のバンコク中心部発着の見直し。
第3に、近郊通勤列車。バンコク郊外と中心部を結ぶ通勤列車の踏切回避ルート検討。
検討の主旨は、(a)市内踏切の総数を減らす、(b)踏切リスクの構造的解消、(c)バンコクの交通混雑緩和、(d)将来の都市計画との整合性、にある。
具体的な代替案として想定されるのは、(i)バンスー駅・マッカサン駅・ホアランポーン駅などの主要ターミナルへの集約、(ii)エアポートレールリンク・MRT・BTSなど既存高架鉄道網の活用、(iii)貨物専用線・バイパス線の新設・整備、など。
危険物運送貨物列車の夜間運行制限
第二の対策として、危険物(化学品・燃料・LPG・爆発物等)を運ぶ貨物列車の夜間運行制限。
現在は、(a)24時間体制で貨物列車が運行、(b)夜間は信号視認性が低下、(c)踏切バリア担当者の注意力低下、(d)緊急対応の遅延、などのリスクがある。
夜間運行制限の具体案:
- 危険物運送列車は夜10時から朝6時まで運行禁止
- 警報音強化・前照灯増設
- 踏切での減速義務
夜間踏切事故のリスクの大幅削減を狙う。
死亡者補償239万バーツへの増額
ピパット交通相は、被害者家族への補償も大幅に引き上げる方針を示した。
補償の積み上げ:
第1に、BMTA(バンコク大量交通局、市内バス事業者)からの基本補償150万バーツ/人。
第2に、SRTからの追加補償。
第3に、政府基金からの上乗せ。
合計で死亡者1人あたり239万バーツ(約1,100万円相当)まで引き上げる方針。
負傷者への補償は、(i)UCEP(緊急医療制度)による無料医療、(ii)BMTAからの傷害補償、(iii)精神的損害賠償、(iv)就業不能期間の収入補填、など個別ケースで対応。
5月20日までの調査完了報告
ピパット交通相は、SRTに対して5月20日までに以下の検討結果を取りまとめるよう指示した。
第1に、バンコク中心部列車運行廃止の具体案。対象路線・期間・代替経路・段階的実施計画。
第2に、危険物列車夜間運行制限の詳細。対象貨物・時間帯・警報基準。
第3に、運転士の運行前薬物検査体制の整備。
第4に、踏切バリア担当者の選定・訓練・配置の見直し。
第5に、SRTの組織責任の明確化。
第6に、被害者家族への補償交渉プロセス。
これらの報告を元に、(i)警察庁主導の「踏切再構築計画」、(ii)アヌティン首相の最終判断、(iii)国会・憲法裁判所への報告、が進められる。
マカサン事故の影響範囲
5月15日の事故から5月18日までの3日間で、タイ社会には次の影響が広がった。
第1に、世論。SRT・運輸省への不信、踏切安全への懸念、犠牲者への哀悼。
第2に、政府対応。警察庁・運輸省・SRT・BMTA・首相府の連携加速。
第3に、関係者処分。(a)列車運転士、(b)踏切バリア担当者、(c)バス運転手、の3者が過失致死罪で起訴。
第4に、組織責任。SRT総裁・人事部・運行管理部・労組まで広がる責任追及。
第5に、構造改革。バンコク中心部列車運行廃止、踏切立体化、運転士検査体制、など根本対策。
第6に、補償交渉。被害者家族との補償交渉、BMTA + SRT + 政府の合同枠組。
バンコク中心部列車廃止の長期的影響
仮にバンコク中心部への列車運行が廃止されれば、(a)市内交通の劇的変化、(b)物流ルートの再編、(c)不動産価値への影響、が想定される。
メリット:
- 市内踏切渋滞の解消
- 踏切事故リスクのゼロ化
- 都市計画の柔軟性向上
デメリット:
- バンコク中心部住民の鉄道アクセス低下
- 物流コスト増加(貨物バイパス経路の建設費)
- 既存駅・施設の機能低下
これらの判断は、(i)国土交通省(運輸省)、(ii)バンコク都(BMA)、(iii)SRT、(iv)市民代表、の合議で進められる必要がある。
関連背景
タイ駐在員家庭にとって、今回の方針は次の意味を持つ。
第1に、市内交通の改善。スクンビット・アソク・プロンポン等の主要エリアの踏切渋滞が解消される可能性。
第2に、エアポートレールリンクの重要性向上。空港アクセスはBSもBTSもないため、AREL(エアポートレールリンク)への依存度が増す。
第3に、物流業界の構造変化。日系製造業のタイ拠点の物流ルートに影響。
第4に、不動産価値の変動。バンコク中心部の鉄道近接住宅の価値が変動する可能性。
第5に、子供の通学・通勤環境。学校・職場へのアクセス手段の見直しが必要になる可能性。
SRT組織への波及
SRT組織への影響は、(a)業務範囲の縮小、(b)人員配置の見直し、(c)組合との交渉、(d)補償費用の財務負担、と多面的。
特に、SRT労組の反発が予想される。「組織縮小は雇用への直接影響」「組織責任追及から派生」との認識で、労使対立が表面化する可能性。
今後の動き
5月20日のSRT総裁調査完了報告に向けて、次の動きが予想される。
第1に、5月19日: 関係省庁・SRT・労組・市民団体の最終調整。
第2に、5月20日: SRT総裁調査完了報告の公表。ピパット交通相が記者会見。
第3に、5月21日以降: アヌティン首相の最終判断、関係省庁の実施計画策定。
第4に、6月以降: 段階的な制度・運行変更の実施。
第5に、長期: バンコク中心部列車廃止の具体的なロードマップ策定(数年単位)。






