タイのピパット・ラチャキットプラカーン副首相兼交通大臣が5月18日、バーレーン王国駐タイ大使カリル・ヤークーブ・アルカイヤット氏と会談し、(a)バーレーンの「Sea-to-Air Logistic Hub(港から空港まで2時間以内の物流ハブ)」プロジェクトとタイの物流網との連携、(b)タイ南部ソンクラー県ジャナ郡のハラル工業団地構想で中東市場向け食品・化粧品・医薬品の輸出拠点化、を協議した。タイ-バーレーン両国は約50年の外交関係があり、(i)バーレーンが中東情勢悪化時のタイ人避難支援を実施、(ii)タイがバーレーン人の滞在ビザ更新を円滑化、と相互協力を深めてきた。日系製造業のタイ拠点にとっても、(A)中東市場アクセス強化、(B)ハラル認証取得の機会拡大、(C)Sea-to-Air物流コスト削減、が見込まれる。
バーレーンの「Sea-to-Air Logistic Hub」とは
バーレーン王国は、ペルシャ湾の小国(人口約160万人、面積約785km²)だが、地理的優位性を活かして、(a)港湾施設(Khalifa Bin Salman Port)、(b)バーレーン国際空港(BAH)、を「2時間以内で接続可能」な物流ハブとして整備している。
特徴は次の通り。
第1に、港と空港の物理的距離。Khalifa Bin Salman PortからBAH空港までの直線距離は約30km、物流業者が2時間以内に貨物を移送可能。
第2に、特殊経済区。空港・港湾周辺に保税地域が広がり、関税・税制面の優遇。
第3に、24時間税関・通関体制。海路で到着した貨物を、即日空路で他の中東諸国・欧州・アフリカへ配送可能。
第4に、自由貿易協定(FTA)網。バーレーンは米国・欧州・GCC諸国との貿易協定を持ち、ハブ機能を強化。
タイにとって、(i)タイ製品をバンコク・レムチャバン港から海路でバーレーンへ、(ii)バーレーンで荷物を仕分け・再パッケージ、(iii)空路で中東・欧州・アフリカへ最終配送、というルートが現実的になる。
ソンクラー県ジャナ郡ハラル工業団地構想
会談のもう一つの主要議題は、タイ南部ソンクラー県ジャナ郡のハラル工業団地構想。
背景:
- タイ南部はマレー系イスラム教徒が多く、ハラル認証取得に必要なインフラ・人材を持つ
- 既存のハラル食品輸出は年間約5,000億バーツ規模(タイ全体食品輸出の約20%)
- 中東市場(GCC諸国: サウジアラビア・UAE・カタール・クウェート・バーレーン・オマーン)の食品需要は急成長中
ジャナ・ハラル工業団地の予定機能:
タイ政府は、(a)産業団地としての投資BOI優遇、(b)技術指導・人材育成、(c)中東のハラル認証機関との相互認証、を提供する方針。
タイ-バーレーン50年外交の歴史
タイ-バーレーン関係は、(a)1977年に外交関係樹立、(b)1980年代以降の経済交流拡大、(c)2000年代以降の人材交流(タイ人労働者のバーレーン就労、バーレーン人観光客のタイ訪問)、と50年の蓄積がある。
近年の協力例:
第1に、2024-25年の中東情勢悪化時、バーレーンが中東地域のタイ人労働者・観光客の避難支援を実施。
第2に、タイ政府がバーレーン人滞在者のビザ更新・延長を円滑化。バンコク・パタヤ・プーケットに長期滞在するバーレーン人が増加。
第3に、王室間の交流。両国王室・王族の相互訪問。
第4に、エネルギー協力。バーレーンの原油・LNGをタイが輸入、タイの食品・農産物をバーレーンに輸出。
ハラル市場—世界規模で急成長中
世界のハラル市場は、(a)食品約2兆ドル、(b)金融約3兆ドル、(c)化粧品・ファッション約1兆ドル、合計約6兆ドル規模と推定される。
特に、(i)GCC諸国の高所得層、(ii)東南アジア(マレーシア・インドネシア・ブルネイ)の中間層、(iii)欧州・北米の400万人以上のムスリム移民、で需要が拡大。
タイはASEANで唯一、(a)仏教国でありながら、(b)南部マレー系イスラム教徒の存在、(c)世界第2位のコメ輸出国・大手食品メーカー(CP、Thai Union、Mitr Phol等)、(d)観光業のハラル対応経験、を持つ。
つまり、「タイ製ハラル食品」は、(i)品質保証、(ii)競争力ある価格、(iii)多様な製品ライン、で中東市場への有力供給国候補。
日系企業への影響
タイ駐在の日系製造業・食品メーカーにとって、今回の動きは次の意味を持つ。
第1に、ハラル市場へのアクセス。タイ拠点からハラル認証付き製品を製造し、ジャナ工業団地を活用して中東輸出。
第2に、サプライチェーン強化。Sea-to-Air物流で、(a)バンコクから中東主要都市までの輸送日数短縮、(b)輸送コスト削減、(c)タイの自動車・電子機器の中東向け輸出強化。
第3に、新市場開拓。日本食品(米・調味料・茶・お菓子等)のハラル対応化と中東輸出の機会。
第4に、観光業への波及。中東からのタイ観光客誘致、バンコク・プーケットのアラブ系ホテル・レストラン需要。
第5に、製薬・化粧品分野。日系(資生堂、コーセー、ロート、武田薬品等)のハラル認証取得とタイ製造で中東輸出。
関連背景
タイ駐在員家庭への直接的影響は限定的だが、間接的に次の関連がある。
第1に、ソンクラー県・タイ南部の地域開発。家族旅行先としての魅力向上。
第2に、バンコク市内のアラブ系コミュニティの拡大。スクンビット・ソイ・アラブ街(ナナ・プロパガンダ周辺)が活性化。
第3に、中東経由の出張・移動の利便性向上。Sea-to-Air物流ハブにより、バーレーン経由の中東出張・乗継便が増える可能性。
第4に、タイ製品の海外展開強化により、日系企業の現地子会社の業績向上。
5月20日の閣議で議論
ピパット副首相は、今回の協議結果を5月20日(火)の閣議に報告し、(a)タイ-バーレーン物流協力の正式承認、(b)ジャナ・ハラル工業団地構想の予算配分、(c)タイ-バーレーン租税協定の検討、を提案する見込み。
タイ政府の中東戦略は、(i)石油・LNG供給源の多様化、(ii)輸出先の多様化、(iii)観光客誘致の新源泉、を狙うもので、バーレーンはその第一歩となる。

