バンコクのエアポートレールリンク・マッカサン駅近くで5月16日に発生した貨物列車対公共バス衝突事故(死者8人・負傷32人以上)について、5月17日に新たな衝撃的事実が判明した。タイ警察が公表した内容によれば、(1)列車運転士の尿検査で覚醒剤(メタンフェタミン)反応陽性「ฉี่ม่วง(紫色尿)」、(2)踏切バリア担当者は防犯カメラで「赤旗を振ったのは一瞬だけで、その後2分間ほぼ何もせず列車到達まで放置」していたという。つまり事故は「薬物使用運転手+怠慢な踏切現場対応」の複合要因で発生した可能性が浮上した。5月17日午後5時30分、マッカサン警察署が踏切担当者ウトン氏(姓は非公表、第2運転員)を拘束し過失致死罪で立件、5月18日午前10時に捜査チーム拡大会議を予定している。
列車運転士の尿検査で覚醒剤陽性
タイ警察が5月17日に明らかにした最大の衝撃情報は、貨物列車4531号(レムチャバン発バンスー行き)の運転士サヨムポン・スワンクン氏(46歳)の尿検査で「メタンフェタミン陽性(紫色反応)」が出たことだ。
タイ警察の薬物検査試薬「ザイデンシュタイン試薬(Zaidenstein reagent)」では、覚醒剤・メタンフェタミン・MDMAなどに反応すると尿サンプルが紫色に変色する。これがタイ俗称「ฉี่ม่วง(紫色尿)」の由来で、現場で迅速に薬物使用を判定する手段だ。
警察は確定診断のため、より精密な検査(GC-MS = ガスクロマトグラフ質量分析)で覚醒剤・MDMA・他の違法薬物の有無を分析する見通し。陽性が確定すれば、運転士は単なる「過失運転致死罪」(刑法第291条、最大10年禁固)に加え、「薬物影響下での運転」(陸上交通法第43条)が加重要件として加わる可能性が高い。
踏切担当者「赤旗わずか数秒」防犯カメラで判明
もう一つの新事実は、踏切バリア担当者の対応が極めて怠慢だったことだ。事故現場周辺の防犯カメラ映像を警察が精査した結果、次の流れが判明した。
担当者は事故発生の2分以上前から赤旗を所持していたものの、実際に旗を振って列車に警告したのはほんの数秒のみ。その後は現場で「立ったまま動かず」、列車が線路上のバスに向かって走ってくる間も、(1)旗を継続的に振らない、(2)無線・電話で機関車側に緊急停止要請をしない、(3)バス側・他車両に「線路から出て」と叫ばない、という形で実質何もしなかった。
公共バス車内の負傷者証言でも「警告の叫び声・大声は一切なかった」と裏付けられている。
5/17夕方の踏切担当者立件
5月17日午後5時30分、マッカサン警察署(สน.มักกะสัน)の捜査チームが踏切担当者「ウトン」氏(姓は警察により非公表、SRTの「第2運転員(พนักงานการเดินรถ 2)」職位)を拘束した。警察は「過失致死罪+過失致重傷罪」(刑法第291条+第300条)で立件方針を決定。
これで本事故の刑事立件対象は、(1)公共バス運転手(206系統)、(2)貨物列車運転士サヨムポン氏(46歳)—覚醒剤陽性の可能性、(3)踏切バリア担当者ウトン氏—怠慢な対応、の3者に確定した形だ。
警察は5月18日午前10時、マッカサン警察署で捜査チームの拡大会議を開催し、追加責任者(SRT管理層、バンコク交通公社管理層など)の立件可能性も検討する。
「ฉี่ม่วง(紫色尿)」と薬物検査の信頼性
タイで「ฉี่ม่วง」と呼ばれる薬物検査試薬は、覚醒剤・MDMA・メタンフェタミン系の合成麻薬に反応する。現場で警察官がすぐに判定できる利点があるが、(a)偽陽性の可能性(特定の医薬品との交差反応)、(b)使用時期の特定不能、などの限界もある。
そのため、警察は通常、簡易検査陽性後に(c)血液中の薬物濃度測定、(d)体毛分析(過去数か月の使用履歴を追跡)、(e)病院での精密検査、を組み合わせて確定診断を行う。今回の列車運転士の場合、貨物列車4531号の運行記録(運転士の勤務シフト・薬物検査履歴)を含めて、SRTの内部監査も並行進行している。
関連背景
事故の構造的問題が次々と明らかになっている。日本人駐在員にとっての含意は次の3点。
第1に、タイの公共交通機関の運転手・管理員は、必ずしも全員が「薬物検査済み・適切な健康状態」で勤務しているとは限らない。これはバス・タクシー・配達ライダーにも一部当てはまる可能性がある。
第2に、タイの踏切現場の人員は「警告系統が機能していない」場面が現実に起きうる。踏切で前方に車両が見えても、自己判断で安全確認するのが鉄則。
第3に、本事故の刑事責任が3者に広がったことで、タイの公共交通機関事故の補償・訴訟が長期化する可能性が高い。バンコク交通公社(BMTA)が既に発表した死亡150万バーツ・障害50万バーツの第一次補償に加え、刑事判決後の追加民事賠償請求が可能になる。
事故の最終的な刑事・民事責任の所在は、警察捜査の進捗と検察判断、最終的には裁判所判決を待つことになる。