タイ南部スラタニ県プンピン郡で5月14日、精神疾患を抱える33歳の弟が、医師処方の薬を自己判断で中断した後に錯乱状態に陥り、寝ていた49歳の兄をナイフで刺殺する事件が発生した。兄ユッタナーさんは脇腹を刺され肺を貫通する重傷で、自ら傷口を押さえながら母のもとへ歩いてきて「ヌッイ(自分の愛称)は弟に刺された」と伝えた直後、搬送先の病院で死亡した。母は悲嘆に暮れている。タイの地方部における精神医療の体制不足と、家族による服薬管理の限界が露呈した痛ましい事件だ。
スラタニ県プンピン郡クルッド町で発生
事件はスラタニ県プンピン郡クルッド町の住宅で発生した。バンマドゥア警察署のカンナヴァチャ・ケオレアン警部(捜査担当)が、5月14日に通報を受け現場へ急行。寝室の中には血の海と、兄の刺し傷が確認された。被害者ナイ・ユッタナー(49歳)は脇腹背側を刺され、ナイフは肺を貫通する深さに達していた。
弟ラッタポン33歳、精神疾患の長期服薬患者
刃を振るったのは弟のナイ・ラッタポン(33歳)。精神疾患の診断を受け、内服薬と注射薬を併用する治療を継続していた患者だった。地元保健所(RP.ST)のスタッフが定期的に話し合いを重ね、新しい薬を取りに行くよう促していた経緯がある。
自己判断で薬を中断、2-3日前から異常な兆候
母の証言によれば、ラッタポンは「ここ最近、自分で薬を止めていた」状態だった。保健所スタッフが説得して新しい薬を取りに行く約束はできたものの、その時点ですでに事件の2〜3日前から「一人でぶつぶつ独り言を言う」「些細なことでも苛立つ」など、精神状態の悪化を示すサインが現れていた。
兄が母に「ヌッイは刺された」と告げる最期
事件発生時、兄ユッタナーは自室で寝ていたところを弟に襲われた。脇腹背側を深く刺された兄は、自分で傷口を押さえながら部屋を出て、母のもとへ歩いて行き「ヌッイ(自分の愛称)は弟に刺されたよ」と告げたという。母は急いで病院へ搬送する手配をしたが、搬送先の病院で兄は息を引き取った。最期の言葉が「自分の弟に刺された」というのは、家族にとって耐えがたい悲劇だ。
警察は精神鑑定を経て立件手続き
警察は弟ラッタポンの身柄を確保した上で、医師の精神鑑定を実施する方針。タイの刑法では、犯行時の精神状態が責任能力に影響する場合、入院措置や治療目的の収容などの判決が下りる可能性がある。本人の精神疾患の経緯と、今後の処遇は鑑定結果次第となる。
タイの精神医療と家族による服薬管理の限界
タイの地方部では、精神医療の専門医療機関が首都圏に偏在しており、地方保健所(RP.ST)が外来薬の配布・継続フォローを担う体制が一般的だ。本人が自己判断で服薬を止めた場合、家族が再服薬を強制することは難しく、悪化を放置する形で事件が起きる構図は、過去にも複数報じられてきた。今回も保健所が再服薬を促していた中での悲劇となった形だ。
在タイ日本人にとっての見え方
直接巻き込まれる事案ではないが、家政婦・運転手・現地スタッフの家族の中に、精神疾患を抱える親族がいる場合は決して珍しくない。雇用主として、本人が「家族の様子がおかしい」と相談してきた場合に、保健所・病院への接続を案内できる情報網を持っておくと、結果として相手の家族を救う場面がある。タイの精神医療リソースは大都市に偏っており、地方部では家族の負担が大きい現実を理解しておきたい。