タイ東北部マハーサーラカム県で5月14日、韓国の季節労働者ビザ「E-8」で渡韓したまま雇用主から逃亡し、現在も不法滞在状態になっている娘を持つ母が、現地取材に応じ涙ながらに事情を語った。逃亡の引き金は独身男性の雇用主による就業時間外の呼び出しと、無断で部屋に入られた事案。家庭には農協系金融機関BAACへの47万バーツを含む計約70万バーツ(約340万円)の借金があり、娘は「両親を助けるためにこの道を選んだ」と告げて連絡を絶ったという。タイから韓国へ「ピーノイ」と俗称される不法残留労働者が出続ける背景には、農村家計のリアルな借金事情がある。
韓国E-8季節労働ビザの6人グループ
報道がマハーサーラカム県の自宅を訪ねたのは、韓国の季節労働ビザE-8で渡韓した6人のタイ人労働者のうち1人の家庭。E-8は韓国の農繁期労働力不足を補うために設けられたビザで、契約期間中は指定の雇用主のもとで働く前提だ。一行のうち1人が雇用主から逃亡し、現時点でも韓国国内に不法滞在の状態が続いている。
母「娘は『両親を助けるためにこの道を選んだ』と」
娘の母は涙を流しながら、ここ最近の経緯を取材陣に語った。娘はすでに長期間家族に連絡してきていない。タイの労働省関連の職員が訪ねてきて「お子さんが雇用主から逃亡しており、帰国してほしい」と伝えてきたが、本人は「もうこの道を選んだ。心配しないで。お父さんとお母さんを助けるためにお金を稼ぐ」と明言したという。
逃亡の引き金は独身男性雇用主の部屋侵入
雇用主は独身の男性で、契約上の業務範囲を超える作業を娘に何度も依頼していた。さらに、ある時には雇用主が事前通告なしに娘の部屋に入ってきた事案があり、それを境に身の危険を感じて逃亡を決意したという。E-8ビザの労働者は雇用主に強く依存する構造で、契約解除や移籍が難しい仕組みのため、逃げる以外の選択肢が事実上限られていた可能性が高い。
家庭の借金は計70万バーツ、BAACに47万B
娘が逃亡してでも韓国で働き続ける動機の核心は、家計の借金だ。父は高血圧、母は5年以上前から脳血管狭窄を抱え、いずれも重労働ができない。家庭には農業協同組合銀行(BAAC、タイの公的農業金融機関)への47万バーツ(約229万円)を含む、累計で約70万バーツ(約340万円)の借金が積み重なっている。10年以上の累積で膨らんだ借金を、娘ひとりの韓国稼ぎで返そうとしている構図だ。
タイから韓国への「ピーノイ」問題
タイで俗に「ピーノイ」(直訳すると「小さな幽霊」)と呼ばれる不法残留労働者は、韓国でとりわけ多く、社会問題化して久しい。今回のケースは、ピーノイになる背景に農村家庭の借金と労働環境の問題が重なっている実情を、家族の声で改めて示した。在タイ日本人の視点でも、地方部の人手不足や高齢者の収入減少が、若い世代を国外労働へ押し出す構造を理解する手がかりになる。
在タイ日本人にとっての含意
韓国E-8ビザの問題は直接の利害関係ではないが、タイの労働市場全体の構造を映している。地方の家庭が日本円換算で数百万バーツ規模の借金を抱え、海外労働で穴埋めしようとする動きは、日本の駐在員家庭の周囲でも見聞きされる。家政婦・ベビーシッター・運転手など身近な雇用関係でも、相手の家庭事情を尊重し、合理的な労働環境を提供することが、結果として安定した雇用関係につながる。