タイ消費者保護局(สคบ.)が5月11日、電気自動車(EV)に関する消費者苦情の集計結果と対策方針を公表した。直接受付分556件と消費者団体経由792件を合わせた累計1,348件、損害賠償請求額は1億310万バーツ(約4億6千万円)規模に達する。苦情の中身は「製造欠陥」47.3%、「返金未処理」18.2%、「購入後の値下げで損失」14.7%、「契約特典の未提供」13.1%、「事故・修理遅延」2.9%という構成。最大の懸念事項は「サービスセンター閉鎖」(329件・41.5%)で、ブランド撤退リスクをタイ国民が肌で感じている。
サービス側の問題類型は、アフターサービス288件(52%)、購入取引183件(33%)、納車関連85件(15%)。とくにアフターサービスの「部品欠陥164件・部品不足による修理待機94件・企業閉鎖で返却不能52件」が積み上がる構造で、消費者が「EVを買ったが修理ができない」という出口の見えない状況に置かれている例が多い。
対策として消費者保護局が打ち出したのは5本柱。(1)EV車向け標準ラベルのe-Book化、(2)標準契約書の運用義務化、(3)150〜200km毎のサービスセンター配置基準の導入、(4)「修理する権利(Right to Repair)」制度の推進、(5)リコール制度の強化。とくに「サービスセンター距離基準」は中国系新規ブランドの撤退・縮小リスクを直視した設計で、消費者がEV購入時に「将来5年・10年の修理サポート確保」を判断できる基準を作る狙いだ。
返金訴訟も具体化している。すでに解決済みの苦情は402件(22.3%)で、残りの未解決案件は民事訴訟で消費者への返金を国が代行する形に進む方針。総額1億310万バーツのうち、解決済み案件で先に回収できた金額がいくらかは公表されていないが、訴訟ベースで返金が実現すれば「EVを買って騙された消費者の救済」がタイ国の制度上の常態となる。
タイのEV市場は2026年第1四半期に自動車販売前年比+7.2%・モーターショー2026予約13万台超でEVが過半数を達成するなど絶好調に見えるが、その裏で500万バーツのメルセデスEVが4か月で故障連発・部品在庫なし、ホンダCR-V e:HEVが5月から値上げ、EV充電中の幼児閉じ込め事件など、ブランド間のサービス品質格差が顕在化していた。今回の1,348件は「氷山の一角」と読むのが妥当だ。
タイ在住の日本人駐在員にとって、この発表は車種選択の重要な情報源となる。とくに「150〜200km毎のサービスセンター配置基準」は事実上、(1)日系ブランド(トヨタ・ホンダ・日産・いすゞ)の全国密ネットワーク、(2)BMW・ベンツ・テスラの大都市集中型、(3)BYD・MG・GWM等中国系の急拡大型、の3グループで対応力が大きく異なる。地方赴任の場合は「最寄りのサービスセンターまでの距離」を購入前に確認することが、EV購入の安全策となる。