タイの財務省次官ラワン・センシン氏が5月11日、政府の経済刺激策「古車交換新車プログラム」について「想像以上に簡単ではない」と慎重な見解を示した。同政策は政府が4000億バーツの緊急借入勅令で実施を予定するものだが、古車の査定価格設定の困難さ、廃車処理プロセスの不透明性、適切な車齢設定など、複数の技術的問題で進展が滞っている。タイ消費税庁(สรรพสามิต)が「至急かつ明確に」結論を出すよう財務省から要請された段階で、具体的な開始時期は未定だ。
ラワン次官の説明は具体的で示唆的だ。「同じ年式の古車でも、車両状態が異なれば査定価格を5万バーツに設定するか6万バーツに設定するかが難しい」と指摘し、(1)古車の年齢基準をどう設定するか、(2)同年式で状態が異なる車をどう公平に評価するか、(3)「高い車を安く買ってしまう」「安い車を高く買ってしまう」リスクをどう避けるか、という3点を実務上の課題として挙げた。
さらに重大な問題は廃車処理プロセスの未整備だ。「タイにはまだ古車の廃車処理を体系的に行うプロセスが整っていない」と次官は明言。古車を購入後、(A)鉄スクラップに分解、(B)バッテリーの分別、(C)廃車の偽装転売の防止、などのフローが体系化されていないと、「政府が買い取った古車が廃車プロセスから漏れて中古車市場に流出する」リスクが残る。これは政策の根幹を揺るがす問題で、「税金で古車を高く買ったのに、市場に再流通する」という事態を避ける必要がある。
予算規模は4000億バーツ規模で、政府が緊急借入勅令で確保した資金から「古車交換新車プログラム」「電気代補助」「再エネ転換」などに割り当てる予定。同プログラムへの配分額は未公表だが、数百億〜千億バーツ規模となる可能性が高い。
政策の狙いは明快だ。タイの自動車製造業は2026年第1四半期に販売前年比+7.2%と回復基調を見せるが、B-SUV/BC-SUVの50578台のうちBEV比率が52.9%と電動化が進む構造変化に直面している。古車交換新車プログラムは、(1)国内自動車製造業の需要喚起、(2)燃費の悪い古車の撤退促進、(3)EV普及の追加プッシュ、を狙う多目的策だ。
しかし、ラワン次官の「簡単ではない」発言は、政府の経済刺激策が必ずしもスムーズに進まない現実を示す。タイ消費税庁が2-3週間前に進捗報告を出した内容を踏まえ、財務省は「至急かつ明確に」結論を出すよう指示したが、技術的問題の解決には時間が必要となる。
タイ在住の日本人駐在員家族にとっては、本政策が実施されれば中古車市場の価格動向に影響が出る可能性が高い。(A)古車所有者は政府買取価格を待つ動機、(B)新車購入者は補助金期待で購入時期を遅らせる、などの行動変化が想定される。中古車市場の流動性低下が起きれば、駐在員が日本帰国時に車を売却する際の価格や売却スピードにも影響が出る。政策の正式発表時期と内容を注視することが推奨される。