タイ警察庁特殊捜査局(CIB)の天然資源・環境犯罪取締隊が国立公園・野生動物・植物局と合同で、5月7日に7県11拠点で同時摘発を実施し、アフリカ産象牙の密輸組織を一斉に壊滅させた。押収品は計13点・総額約990万バーツ(約4,850万円)相当で、内訳は象牙塊・破片250kg(750万バーツ)、象牙柄ナイフ160本(240万バーツ)、仏教念珠・お守り・装飾品など。容疑者9人が一斉に逮捕された。同組織は10か月で約1,000万バーツを動かしており、ベトナム経由でタイに密輸された象牙が高額収集家・お守り店向けに流通していた。
摘発は2026年5月7日午前、CIB特殊捜査局・天然資源環境犯罪取締隊(กองบังคับการปราบปรามการกระทำความผิดเกี่ยวกับทรัพยากรธรรมชาติและสิ่งแวดล้อม)と、国立公園・野生動物・植物局(กรมอุทยานแห่งชาติ สัตว์ป่า และพันธุ์พืช)が合同チームを編成して実施。サムットサーコン、ウタイタニ、カンペーンペット、チュムポーン、ソンクラー、チョンブリ、チャンタブリの7県11拠点に同時急襲した。
押収された象牙はDNA鑑定でアフリカ象(ロクソドンタ・アフリカーナ)の象牙と判明。アフリカ象は1989年のCITESワシントン条約付属書Ⅰに登載されており、商業目的での国際取引は原則禁止されている。本件はベトナム経由でタイに密輸されたケースで、アフリカ→ベトナム→タイの密輸ルートが組織犯罪として継続している実態を示す。
加工品の内訳も注目される。象牙塊250kgは原料として未加工のまま、象牙柄ナイフ160本は装飾刃物として、その他は仏教念珠・お守り・装飾品として組み込まれ、タイ国内の収集家とお守り店ネットワーク(พระเครื่อง/プラ・クルアン)を通じて販売されていた。タイの伝統的な「プラ・クルアン」市場では、象牙素材のお守りが高い縁起物として高値で取引される文化があり、組織犯罪はこの需要を悪用していた。
組織の規模は、10か月の運用で約1,000万バーツ(約4,900万円)の金銭が動いたとされる。これは小規模ながらも組織的・継続的な犯罪ネットワークの存在を示している。タイは過去にも2015年に7トン規模のアフリカ象牙押収事件など大規模押収事案を経験しており、東南アジアの象牙密輸の主要中継地点として国際的に批判されてきた経緯がある。
タイの野生動物保護法(พ.ร.บ. สงวนและคุ้มครองสัตว์ป่า)では、保護動物の素材・派生物の取引は厳格に規制されており、違反者には最高で禁錮4年と罰金80万バーツ(約400万円)が科される。アフリカ産象牙はタイ国内の象牙とは別系統で、商業取引は完全に違法。今回逮捕された9人は、これらの法律に基づいて立件される。
タイの野生動物関連事案では、5月10日にブンカン県プーウア野生生物保護区で39歳女性が野生象に襲われ死亡、5月10日にスリン県のタイ最長象牙『プラーイ・トーンバイ』が53歳で死亡など、野生象と人間の関係を考えさせる事案が連続していた。今回のアフリカ象密輸事件は、タイ国内の象牙文化が国際的な野生動物犯罪と接続している現実を示す。
タイ在住の日本人駐在員にとって、プラ・クルアンやお守り市場での象牙素材製品の購入は厳格に避けるべき領域だ。「縁起物」として土産にすると、(1)タイ法違反の可能性、(2)日本への持ち込み時の関税法・ワシントン条約違反、(3)航空機内での没収、というリスクが連鎖する。象牙素材を装ったプラスチック・骨製品も、表記がない限り疑わしいとの認識が安全だ。