バンコク・ラムカムヘン区のソイ・ラムカムヘン53で5月10日夜、ライブストリームでコーランとイスラム教を侮辱したとされるトランス女性「マダム」(本名アブドゥラー)の周囲を、地元ムスリム住民数千人が取り囲み激しい抗議を行う事態となった。最終的にコミュニティリーダーが交渉に入り、当人は頭髪を剃る・自分の顔を叩く・公式謝罪する3条件を受け入れて事態は鎮静化した。バンコク警察が現場に展開し、武力対立は回避された。
事案発生地はソイ・ラムカムヘン53。同地区はバンコク内でもムスリムコミュニティが密集する一帯で、ジャミウルイスラム・モスクが地域信仰の中心となっている。アブドゥラー氏は同日夜にライブ配信を行い、ヒジャブ(イスラム教徒女性の頭巾)を着用しながらコーランの内容を揶揄する発言を行ったとされる。イスラム法では男性が女性として装うことが禁じられており、ヒジャブ着用+宗教侮辱の組み合わせが住民の強い怒りを招いた。
ライブ放送はSNSで急速に拡散し、当日夕方までにムスリムコミュニティ内で大規模な抗議行動の呼びかけが組織化された。同日夜、ソイ・ラムカムヘン53には数千人規模のムスリム住民が集まり、当人を取り囲む事態に発展。物理的な暴力に発展する寸前で、警察が介入した。
対立回避のため、地元コミュニティリーダーが当人と交渉。レストラン内で行われた話し合いの結果、アブドゥラー氏は3つの条件を受け入れた:(1)頭髪を完全に剃る、(2)自分の顔を平手で叩く、(3)ムスリムコミュニティに対して公式に謝罪する。当人は「衝動的な行動だった」と非を認め、謝罪を表明した。
タイは仏教徒が約94%を占める仏教国だが、深南部3県(パッタニー、ヤラー、ナラティワート)に加えて、バンコク・各都市部にも数百万人規模のムスリム少数派が暮らしている。一般的にタイは宗教的寛容性が高い社会だが、特定宗教を直接侮辱する行為は、バンコク中心部であってもコミュニティ全体の強い反発を招く。
同時期にタイ深南部では国境警備隊車両への爆弾テロ事案が発生するなど、宗教コミュニティと社会の関係性は依然として敏感な領域にある。今回のラムカムヘン事案は、バンコク中心部であっても宗教を巡る感情が瞬時に動員される現実を改めて示した。
タイ在住の日本人駐在員にとって、宗教的少数派への配慮は重要なリテラシーだ。SNSでの不用意な投稿、ハロウィン仮装の選択、観光地でのモスク・寺院での行動など、無意識の言動が宗教的緊張を引き起こす可能性がある。特に、ヒジャブ・ターバン・僧衣などの宗教的服装を冗談・コスプレで着用することは、いずれの宗教に対しても避けるべきだ。