タイ天然資源環境省は4月8日、ペッチャブリー県で計画されている2件の大型工業プロジェクトに関する環境影響評価(EIA)報告書への住民側の異議申し立てを正式に受理した。スチャート天然資源環境大臣の指示を受け、ニポン・ジャムノンシリサック副事務次官とバンナラック・サームトーン国家環境政策計画事務局長が対応にあたった。
異議を申し立てたのは、ペッチャブリー第1選挙区選出のティワンラット・アンキナン下院議員である。住民を代理して、コンデンセートおよび原油転換プラント拡張計画(第1期)と、発電・蒸気生産プロジェクトの2件についてEIA報告書の内容に重大な問題があるとする書面を正式に提出した。
住民が懸念するのは環境汚染だけにとどまらない。沿岸漁業や製塩業、農業といった地域の主要産業への打撃に加え、観光業への信頼低下も深刻な問題として挙げられている。プロジェクト予定地がタイ湾沿岸の集落に近接し、生態系が豊かで脆弱な湿地帯に隣接していることが、地域住民の不安を一層高めている。
ペッチャブリー県はタイ湾に面した沿岸部を有する観光地として知られる。マングローブ林や干潟が広がるこの地域では、漁業が多くの家庭の収入源となっている。工業施設の建設によって水質汚染や生態系破壊が起きれば、漁業権を持つ地域住民の生活基盤が直接損なわれる。製塩業も沿岸環境に依存しており、水質の変化は即座に品質と生産量に影響する。
さらに、工場予定地周辺にはエコツーリズムの重要拠点や、王室プロジェクトに関連する複数の施設が存在する。タイでは王室が関与するプロジェクトは地域コミュニティの象徴でもあり、その周辺に大規模工業施設が建設されることへの住民感情は複雑だ。大規模な工場がこれらの地域に及ぼす騒音、悪臭、光害などの影響は長期にわたる可能性があり、住民は十分な情報開示と住民参加型の審査プロセスを強く求めている。
EIA制度はタイ国内法に基づき、一定規模以上の開発事業に義務付けられている環境保護の要となる仕組みだ。しかし過去には「形式的な手続き」として機能し、地域住民の意見が実質的に反映されないまま開発が進むケースが繰り返されてきた。今回の異議申し立ては、住民側がEIA制度の実効性を問い直す動きとして注目される。
天然資源環境省は事実関係の調査を急ぐとともに、住民の声を多角的に聴取する方針を示した。政府がどこまで住民の懸念に応えられるか、今後のEIA審査の進め方が問われる局面となっている。タイでは近年、工業化と環境保護のバランスをめぐる地域紛争が各地で増加しており、本件もその一例として全国的な関心を集めている。