カーラシン県のガーラシン農家・バンティット・プーブタムさん(58歳)は「ディーゼル・コンバイン・輸送費・肥料が全部上がったのに、コメはキロあたり7バーツにしかならない。このままでは生活が成り立たない」と訴える。2026年4月時点のタイの燃料価格はディーゼルが1リットル48.28バーツ、E85が36.23バーツ、E20が39.49バーツ、ガソホール91が33.68バーツに達しており、農業機械・運搬車両の稼働コストが直接農業収支を圧迫している。
コンバインハーベスター(稲刈り機)の作業料金は燃料高を受けて1ライ(1600平方メートル)あたり600バーツから700バーツに値上がり。収穫後の精米・出荷のための輸送コストも1回あたり100バーツ前後増えた。それでいながら農家がコメ業者に売る「籾」の価格はキロあたり7バーツ台で固定されており、コスト増と販売価格の乖離が広がった。
コメはタイの主要農産物で、農業人口の約半数が稲作に従事している(農業省2024年)。タイは世界有数のコメ輸出国だが、農家の取り分は流通コスト・仲買人・輸出業者のマージンが差し引かれた後の「残り」が基本だ。タイ政府は農家を支援するための価格保証制度(Pledge Scheme)を過去に実施したが、財政コストが膨大になるとして縮小された。
燃料価格の急騰は農業だけでなく、農産品の流通を担う小規模トラック業者・農薬・肥料の輸入コストにも波及する。化学肥料はロシア・ウクライナ産の供給制約を受けて2022〜2025年に高騰し、2026年も平常化していない。農家は「すべてのコストが上がる一方で、農産物価格は上がらない」という構造的な不利に置かれている。
タイ農業省は農家向けの補助金・融資支援策を複数持っているが、実際に末端の小規模農家まで届くかどうかは実施機関の窓口能力と農家の情報アクセスに左右される。政府が燃料コスト上昇分を部分的に補填する緊急支援が実施されている農業県もあるが、全国一律の対応には至っていない。