ベトナム政府は2026年3月、燃料に対する環境保護税(Environmental Protection Tax)を一時的にゼロに引き下げると発表した。中東紛争による原油高騰を受けた緊急措置で、国内ガソリン価格は即時25%超の引き下げとなった。タイが同じ原油高騰に直面しながらも物品税を1バーツ引き下げるにとどめたのとは対照的な対応だ。
環境保護税ゼロの効果
ベトナムの環境保護税はガソリン1リットルあたり約2,000〜4,000ベトナムドン(11〜22バーツ相当)が課されていた。これをゼロにすることで小売価格を大幅に引き下げることができる。
タイでは同時期、ガソホール95が41バーツ台に高騰していた。危機前の35バーツ台から6バーツ以上の上昇だ。ベトナムが環境税ゼロで対応する一方、タイは物品税の1バーツ引き下げという小幅な措置にとどまり、実質的な価格抑制効果は限定的だった。
ASEAN各国の燃料価格対応
同時期のASEAN主要国の対応は大きく異なる。マレーシアは政府補助金で市場価格の半額以下を維持しているが、2026年から補助金改革を進めており、外国人への適用制限が始まった。ブルネイは産油国として国民への補助金が充実しており、ガソリン価格は13.54バーツ/L程度と格安だ。インドネシアは補助金付きのプレミウムと市場価格のペルタマックスの二本立てを維持している。シンガポールは市場価格主義で80〜90バーツ/L台と最も高い。
タイ政府は「ASEAN内では安い方」と主張したが、ベトナムの思い切った減税措置が注目されたことで、「なぜタイはもっと大胆な対応ができないのか」という批判が野党や国民から上がった。
タイとベトナムの財政構造の違い
ベトナムが環境税ゼロという大胆な措置を取れる背景には、財政余力の違いがある。ベトナムは近年のFDI(外国直接投資)急増で税収が伸びており、一時的な減税を吸収する余力がある。タイは石油基金の枯渇、財政赤字の拡大、経済成長率の低迷という三重苦の状況にあり、大型の減税措置は財政規律上の懸念を生む。
財務省と経済省の試算では、タイが全国規模でガソリン税をゼロにした場合、年間数千億バーツの税収が失われる。それに代わる財源の確保が見通せない中では、ベトナムのような思い切った措置は取りにくい構造的な問題がある。
燃料課税とエネルギー政策の岐路
燃料に対する環境税や物品税は、価格抑制と気候変動対策という相反する目標の間で常に政策的な綱引きが生じる。短期的には国民の生活費を下げる効果があるが、CO2削減という長期的な環境目標とは逆行する。
タイは2050年のカーボンニュートラル目標を掲げており、燃料税の引き下げは目標達成を遠ざける。一方で目の前の生活苦を抱える国民に増税を続けることも政治的に困難だ。ベトナムの選択は短期的な民心安定を優先したものであり、長期的な持続性には疑問符がつく。
