中東の紛争による燃料危機は、タイのエネルギー構造が抱える根本的な脆弱性を露呈させている。タイは原油の大部分を中東からの輸入に依存しており、ホルムズ海峡の封鎖は即座に国内の燃料供給に致命的な影響を及ぼす構造になっている。
タイの石油輸入先はサウジアラビア、UAE、クウェートなどのペルシャ湾岸諸国が中心だ。2025年時点でタイの原油輸入の約70%が中東からとされており、この依存度の高さは経済成長と工業化の過程で形成されてきた。石油基金は従来、国際価格の急騰時に緩衝材として機能してきたが、今回のような規模の価格上昇が持続すると赤字が急拡大し、補助金維持が困難になる。2026年3月から4月にかけての6バーツ規模の一斉値上げは、その限界が現実化した瞬間だった。
電力分野でも状況は似通っている。タイの電力の約6割は天然ガスを燃料とする火力発電で賄われており、そのLNG(液化天然ガス)の輸入ルートも中東経由が大きな割合を占める。石油と同じルートへの依存という二重リスクを抱えており、「石油が止まれば電気も止まる」という最悪のシナリオへの備えが十分かどうかが問われている。
再生可能エネルギーの比率は徐々に増加しているが、2025年時点でタイの再エネ発電比率は全体の約20%台にとどまる。太陽光発電は日照が豊富なタイに適した選択肢であり、政府も太陽光の普及加速を進めているが、蓄電池技術のコスト低下と送電網の整備が必要なため、短期的な危機対応の主力にはなりにくい。
この危機を機に、タイではエネルギー安全保障の見直しが本格化している。代替輸送ルートの確保、備蓄量の拡大、そして中東以外の供給源の多様化が急務となっている。ロシアや中央アジア産の石油・ガスへのアクセス拡大、東南アジア域内でのエネルギー取引強化、そして自国産のバイオマス・バイオガス利用拡大が議論されている。日本でも同様に中東依存が高く、ホルムズ情勢はアジア全体のエネルギー安全保障に関わる問題として共有されている。
タイ政府は今後のエネルギー政策において、「安価さ」だけでなく「安定供給の多様性」を重視した構造転換を進める方針を打ち出している。