860μg/m³という数値は、WHOが定める1日平均基準値(15μg/m³)の57倍にあたる。チェンダオ郡バーンパンマヤオで記録されたこの値は、タイ国内で観測される大気汚染としても異例の水準だ。都市部のナコンピン病院付近でも256μg/m³が計測されており、複数の郡で150μg/m³を超えた。
原因は山岳部で続く森林火災だ。毎年2月から4月にかけて、タイ北部では農地の野焼きと森林火災が重なり、PM2.5が急上昇する。今年は中東紛争に伴う燃料危機の影響で消火活動の燃料確保にも制約が生じており、火災の拡大に歯止めがかかりにくい状況にある。
健康被害は深刻だ。8歳の女児が鼻血を出し、両親は「PM2.5が上がるたびに同じ症状が出る」と訴えている。住民の間では目の痛みや皮膚の発疹が広がり、道路では視界不良が報告されている。
チェンマイは日本人観光客にも人気の高い都市だ。旧市街の寺院巡りやカフェ文化を目当てに訪れる人が多いが、3月から4月は毎年この大気汚染に見舞われる。AQI(大気質指数)がこの水準に達すると、屋外活動は健康な成人にとっても推奨されない。渡航を予定している場合は、リアルタイムの大気質情報を確認し、N95マスクを準備することが望ましい。
タイ北部のPM2.5問題は毎年繰り返されているが、根本的な解決には至っていない。野焼きの代替手段の普及や森林管理の強化が求められているが、農家の慣行を変えるには時間がかかる。860μg/m³という数字は、問題の深刻さを改めて突きつけている。