エネルギー規制委員会(ERC)は、電気料金を現行の1キロワット時3.88バーツに据え置くためには約50億バーツ(約220億円)の財源が必要だと明らかにした。新政府の発足後、最初に直面する大きな物価政策の一つとなっている。
ERCが提示した2026年5〜8月期の電気料金案は3つある。第1案は3.95バーツ、第2案は4.23バーツ、第3案は4.59バーツへの引き上げだ。しかし政府は「現行の3.88バーツを維持する」と表明しており、その差額50億バーツを何らかの形で手当てしなければならない。ERCとしては3案のうちいずれかを採択することが財政的に正道だと考えているが、最終決定は政府の裁量に委ねられている。
タイの電気料金算定には「FT(燃料調達費)」と呼ばれる変動費が含まれる。FTは天然ガスの輸入価格や国内での発電コストを反映して毎四半期改定される仕組みだが、政府が意図的に引き下げたまま据え置いてきた経緯がある。この結果、発電会社(EGAT・MEA・PEA)の収益が圧迫され、累積赤字が膨らんでいる。EGATの負債はこのまま放置すると、電力インフラへの新規投資に支障をきたす可能性がある。
ERCの担当者は「財源は政府が決定することで、我々の役割は技術的な算定だ」と述べた。政府が3.88バーツ据え置きを貫くなら、補填財源として石油基金や予備費の活用、あるいは発電会社への融資継続といった選択肢が考えられる。ただし石油基金は燃料価格補助でもすでに深刻な赤字状態にある。
タイの電気料金は東南アジアの中でも比較的低い水準にある。家庭向け電気代は2020年代に入ってから断続的に値上がりしており、市民の生活費負担は増している。1世帯あたりの月間電気代は平均1,000〜2,000バーツ程度で、エアコン使用が多い高温期には2,000バーツを超える世帯も珍しくない。中小企業にとっても電気代は固定費の中で大きな比重を占める。
新内閣の発足後、値上げを認めれば家庭の負担が増し、据え置けば財政的なひずみが拡大するという難しい選択が待っている。電気代と燃料代のダブル高騰が続けば、生活コスト全般の上昇につながり、消費の落ち込みを通じて経済成長にも影響しかねない。タイ国内の経済専門家は「エネルギー価格の正常化は痛みを伴うが、先送りすれば後のコストが大きくなる」と指摘している。
タイのGDPに占める消費の割合は約55%で、エネルギー価格の上昇は個人消費の冷え込みを通じて経済全体に波及する。特に低所得層の実質購買力低下は深刻で、政府の生活支援策の拡充が求められている。
タイバーツは2026年に入り中東情勢の影響で対ドルで軟調に推移し、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力が高まった。タイ中央銀行は金利政策と為替介入を慎重にバランスさせながら対応している。
在タイ日本人や日本からの訪問者にとっても、今回のような出来事はタイの社会・文化の一側面を理解するうえで参考になる。タイと日本の間には歴史的・経済的な深い結びつきがあり、在タイ日系企業のビジネス活動や日本人観光客への影響も無視できない。今後も継続的な情報収集と現地状況の把握が重要だ。
タイは人口約7,000万人を擁する大国で、バンコクを中心に経済・文化・政治が集中している。2026年現在、首相アヌティン・チャーンウィーラクーン率いる連立政権は、中東情勢の影響で高まるエネルギーコストと生活費上昇への対応を最優先課題としている。在タイ日本人・日本企業にとっても、タイの政策動向や社会情勢を把握し、適切に対応することが求められる局面だ。