タイは石油を自国で生産している。タイ湾にはエラワン、プラトン、ボンコットといったガス・油田があり、PTT Exploration & Production(PTTEP)が採掘を続けている。にもかかわらず、タイはなぜ大量の原油を中東から輸入しなければならないのか。燃料危機のたびに上がるこの疑問を、データで解き明かす。
自国生産は需要のわずか12〜15%
タイの国内原油生産量は日量約17万バレル(2025年11月時点)。一方、国内の石油消費量は日量約137万バレルだ。自国生産でカバーできるのは需要の12〜15%に過ぎず、残りはすべて輸入に頼っている。
比較として、日本は需要の99%以上を輸入に依存しており、タイはまだ「産油国」と呼べる立場にある。だが15%の自給率では、国際市場の価格変動や供給途絶に対して極めて脆弱だ。
量だけでなく「種類」が違う
タイ湾で採れるのは主に天然ガスとコンデンセート(超軽質油)だ。PTTEPの主力であるG1/61鉱区(エラワン、プラトン等)は日量8億立方フィートの天然ガスを産出するが、随伴する液体燃料はコンデンセートが中心である。
コンデンセートからはガソリンやナフサ(石油化学原料)は作れるが、タイの燃料消費の約半分を占めるディーゼルの生産効率が低い。ディーゼルを効率よく精製するには、中東産の重質原油が不可欠だ。つまりタイは「石油があるのに足りない」のではなく、「必要な種類の石油がない」というのが正確な表現である。
精製能力は十分、原料が足りない
タイの石油精製能力は日量約123万バレルで、ASEAN域内ではシンガポールに次ぐ規模だ。主な製油所は以下の通り。
- PTT Global Chemical(PTTGC): 28万バレル/日
- Thai Oil(タイオイル): 27.5万バレル/日
- Bangchak(バンチャーク、旧ESSO含む): 29万バレル/日
- IRPC: 21.5万バレル/日
- Star Petroleum(SPRC): 17.5万バレル/日
精製能力自体は国内需要を概ねカバーできる水準にある。問題は、これらの製油所に投入する原油の大半を輸入しなければならない点だ。精製設備はあるが、原料が自前で調達できない。工場はあるのに材料を買い続けなければ動かない状態である。
輸入先の約6割が中東
タイの原油輸入の約59%がホルムズ海峡を通過する中東産だ。輸入元はUAEが最大で約43%、サウジアラビア14%、米国12%と続く。
2026年3月の中東情勢の緊迫化でホルムズ海峡の航行リスクが高まった際、タイ政府が即座に石油備蓄の確認と緊急対策に動いたのはこのためだ。輸入ルートの6割が一つの海峡に集中するリスクは、タイのエネルギー安全保障における最大の弱点である。
石油基金の赤字が示す構造問題
タイ政府はディーゼル価格をリッター30バーツ以下に抑えるため、石油基金(Oil Fuel Fund)で補助金を出してきた。だが2026年3月には補助額がリッターあたり20.36バーツと過去最高を記録。基金は1日あたり25.9億バーツ(約112億円)を失い、累積赤字は350億バーツ(約1,500億円)に膨らんだ。
3月18日にはディーゼル上限価格を33バーツに引き上げ、段階的な値上げを容認せざるを得なくなった。価格統制は一時しのぎにはなるが、輸入依存の構造そのものは変わらない。
長期的な出口はあるのか
タイ政府はEV普及政策を推進し、2030年までに国内自動車生産の30%をEVにする目標(30@30政策)を掲げている。EVが普及すればディーゼル・ガソリンの需要は徐々に減る。再生可能エネルギーの導入拡大も進んでおり、太陽光発電の設備容量は増加傾向にある。
だが現時点でタイの輸送部門はほぼ100%が化石燃料に依存しており、構造転換には10年単位の時間がかかる。「タイに石油があるのになぜ」という問いへの答えは、量・種類・精製構造・輸入ルートという4つの制約が重なった構造的な問題だ。
