中東情勢による原油高騰の影響は2026年3月、フィリピンでも深刻な問題を引き起こした。ディーゼル価格が再び大幅上昇する見通しの中、ガソリンスタンドに長蛇の列ができ、ジプニー運転手たちが廃業を真剣に考え始めている。
ジプニーはフィリピン特有の乗り合いバスで、改造型の軍用ジープをベースにした派手なデザインの交通機関だ。都市部・農村部を問わず庶民の足として機能してきたが、2020年代に入ってからの燃料費高騰と電動化政策の波に押され、経営環境が急速に悪化している。
1リットルあたりのディーゼル価格は2025年末から継続的に上昇し、2026年3月時点では運転手の収入の大半を燃料費が占める状況となった。マニラ首都圏の運転手組合「PISTON」の関係者は「1日の売上の60〜70%が燃料代に消える。家族を養えない」と訴えた。フィリピン政府はジプニー電動化政策を推進しているが、電動ジプニーへの切り替え補助金は申請手続きが煩雑で、多くの小規模運転手は恩恵を受けられていない。
タイでも同じ構図が起きていた。タイのバンコク首都圏ではソンテオ(乗り合いトラック)や路線バスの運転手が運賃値上げを訴え、政府と交渉を続けてきた。2026年3月時点でタイのディーゼル価格は1リットル33〜48バーツ台と不安定な状態が続いており、農業用機械や物流トラック、漁船など幅広い分野でコストが跳ね上がっている。
フィリピンとタイで起きている問題に共通するのは、中東の緊張がホルムズ海峡を通じた原油供給を圧迫し、それが東南アジア全域の燃料価格を押し上げている構造だ。東南アジアの多くの国は原油を輸入に頼っており、産油国であるマレーシア・インドネシアとは異なり、価格変動の直撃を受けやすい。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、東南アジアのエネルギー需要は2030年にかけて年2%前後の成長が続く見通しだが、再生可能エネルギーへの移行は計画より遅れている。このため燃料高騰が庶民の生活を直撃する構造的な脆弱性はしばらく続くと見られる。
