タイ西部カンチャナブリ県ムアン郡ラートヤー町(ต.ลาดหญ้า อ.เมือง จ.กาญจนบุรี)の豚焼肉(ムーガタ)店「トンプラドゥー・ムーガタ」で5月19日夜、警部補(ร.ต.ต.、警察階級の Police Sub-Lieutenant)を名乗る男性客が20歳のウェイトレスにわいせつ行為を働き、店主が翌5月20日に防犯カメラ映像をFacebookで公開して告発した。加害者は「これは普通のこと」と発言し反省を示さず、現場で警察を呼んだものの解決には至っていない。店主は加害者の上司に厳正な処分を求めている。
事件の経過
被害が発生したのは5月19日午後9時30分頃。トンプラドゥー・ムーガタ店に男女12人のグループが大テーブルで来店し、その中の1人で警察または軍のシンボルに似たマークが付いたTシャツを着た男性が、20歳のウェイトレス「ジェン」(化名)を呼び寄せた。
男性客は「歌を歌わせてほしい」と店主への申し入れをジェンに依頼。ジェンが店主に確認すると、他のテーブルにも客がいることから許可は出ないとの返答だった。ジェンがその回答を伝えに男性客のテーブルへ戻った瞬間、男性客が手を伸ばしてジェンの性器を掴むわいせつ行為に及んだ。
ジェンは突然の被害にショックを受けて泣き出し、店主が事態に気付いて警察を通報した。しかし、加害者は現場で「これは普通のこと」と発言し、反省も謝罪も示さなかったとされる。
防犯カメラ映像で証拠
店主は店内に設置された防犯カメラ映像で加害者の行為を確認後、5月20日にFacebookで映像と被害状況を公開。「うちの店員が客にわいせつ行為を受けた。法的手続きを取る。最後まで戦う」とコメントし、加害者の所属上司に厳正な処分を求める姿勢を表明した。
Khaosod 紙の取材に応じたジェン本人は、現場の状況を時系列で次のように語った。
- 21:30頃、男女12人のグループが大テーブルで来店
- 警察/軍マークのシャツを着た男性客が呼びかける
- 「歌を歌わせてほしい」と申し入れを依頼される
- 店主に確認後、断りを伝えに戻る
- その瞬間にわいせつ行為を受け、ショックで泣き出す
防犯カメラ映像はジェンの証言を裏付ける形で、加害行為の経過を客観的に記録していた。
タイ警察組織の階級「ร.ต.ต.」
加害者が名乗った「ร.ต.ต.(ロー・トー・トー)」はタイ警察階級の「警部補(Police Sub-Lieutenant)」に相当する役職。新任の警察官が任官する初級の士官階級で、警察学校卒業後の最初のポジションとして配属される。
タイの警察階級は最下位の「サー・トー(ส.ต.ท.、巡査)」から「ポー・トー・オー(พ.ต.อ.พิเศษ、警視正)」まで多段階に分かれており、警部補(ร.ต.ต.)はその中間に位置する。加害者が実在の警察官か、警察マーク付きシャツを着用していただけかは現時点で確認されていないが、店主は警察組織への通報と上司への申し入れを進めている。
タイの公務員によるセクハラ問題
タイ社会では、警察・軍人・地方公務員といった権威を持つ立場の人物によるセクハラ・性犯罪が、近年繰り返し問題となっている。
タイ女性権利擁護NGOの集計では、2024年から2025年にかけて警察職員によるセクハラ・性的暴行の告発件数が前年比で約30%増加。加害者の多くが「相手も同意していた」「冗談だった」「普通のこと」といった発言で反省を示さないケースが目立つ。
今回の加害者の発言「これは普通のこと(เป็นเรื่องธรรมดา)」は、SNSで批判的な拡散を受けており、「タイの男性社会・公務員社会に根強く残る女性軽視の典型」「権力者の特権意識の象徴」といったコメントが相次いでいる。
防犯カメラと SNS が変える告発の構造
タイの被害者支援団体は、防犯カメラとSNSの普及によって、こうした事件の告発が10年前と比べて格段に容易になったと指摘する。
過去には、被害者が泣き寝入りせざるを得なかったケースも多かったが、現在は店舗・コンビニ・タクシーなど多くの場所に防犯カメラが設置されており、客観的証拠が即座に確保できる環境になった。さらに、Facebook・TikTok・X(旧Twitter)で映像が拡散することで、加害者側が「揉み消す」余地が大幅に狭まっている。
今回のトンプラドゥー・ムーガタ店主の対応は、その典型的な事例。事件発生から24時間以内に防犯カメラ映像と被害状況をSNSで公開し、加害者の上司に処分を求めるプロセスを並行で進めた。
カンチャナブリ県警の対応
カンチャナブリ県ムアン郡警察は事件の通報を受けて現場対応に当たったが、その場での解決には至らず、被害届の正式受理と捜査開始に時間がかかる可能性がある。タイ警察組織の内部では、警察官同士の不祥事に対して「身内をかばう」傾向が指摘されることもあり、店主が加害者の上司に直接申し入れる選択を取った背景にはそうした事情がある。
ジェン側は弁護士を立てて法的手続きを進める方針。タイ刑法のわいせつ罪(セクシュアル・ハラスメントを含む不貞行為)は、有罪なら最大10年の懲役と20万バーツ(約92万円)の罰金が科される。
カンチャナブリ県は日本人観光客にも人気のエリアで、クワイ川鉄橋・エラワン滝・サイヨーク国立公園が主要観光地。今回の事件は飲食店という一般的な場面で起きた事件として、地元・観光客双方に強い警戒感を呼んでいる。



