タイ農業協同組合省のスリヤ・ジュエンルンルアンキット大臣とワッチャラポン・カオカム副大臣が5月16日、ドリアン主産地として知られる東部チャンタブリ県クルング郡を訪問し、「肥料70:30」政策と「チャンタブリモデル」の全国展開を発表した。化学肥料への依存度を下げて有機肥料・生物肥料を組み合わせることで、上昇する栽培コストを抑え、タイドリアンの長期競争力を守る狙いだ。2025年のタイドリアン輸出額は1,400億バーツ超(約6,440億円)に達しており、生産量の約7割が輸出、そのうち9割以上が中国市場向けとされる。2026年は生産量がさらに3割増の予測で、品質維持が産業の生命線になっている。
5/16 チャンタブリでの視察
スリヤ大臣はクルング郡ボー区にある「安全農業システムによる大規模ドリアン農業学習センター」を訪問した。チャンタブリ県のモンシット・パイサンタナワット知事や農業関連の各部門担当者が出迎えた。視察では、(1)地元の土壌専門家ボランティア「ホモディン・アサ」によるドリアン栽培の上流から下流までの知識共有、(2)土地開発局(LDD)が開発した17種類以上の微生物・バイオテクノロジー製品「PD(พด.)」シリーズの実演、(3)ドリアン果皮やマンゴスチンの葉といった農業残渣を堆肥化して化学肥料を代替する手法の紹介などが行われた。
「肥料70:30」政策の中身
化学肥料は栄養素濃度が高く購入も簡単だが、世界的な原料価格高騰でタイの農家にとって大きな負担になっている。今回の「肥料70:30」政策は、化学肥料7割・有機肥料3割を目安に組み合わせ、土地開発局が提供する栄養素テーブルを参考に農家が自分で割合を調整する仕組みだ。スリヤ大臣は記者団に「料理の味付けと同じで、土壌検査の数値を見ながら配合する」と説明した。
化学肥料を一気にゼロにすると収量が落ちる懸念があるため、段階的に削減する設計になっている。土壌の質を保ちながらコストを下げ、化学肥料価格の変動リスクから農家を守る狙いだ。
「チャンタブリモデル」4本柱
スリヤ大臣はタイドリアンの安定供給に向けた4つの重点政策を打ち出した。
- 土壌再生:肥沃な土壌こそが肥料コスト削減と品質向上の核心
- 有機肥料推進:化学肥料の使用量を計画的に削減
- 国際基準維持:GAP(適正農業規範)とGMP(適正製造規範)の認証を堅持
- チャンタブリモデルの全国展開:他のドリアン産地(ラヨーン・ターク・スラタニーなど)にも横展開
視察の最後には、スリヤ大臣から地元の土壌専門家ボランティア16人に対し7部門の感謝状が、農家代表4人にPD微生物製品セットがそれぞれ授与された。
中国輸出140億B市場の足元
タイ商務省と農業協同組合省のデータでは、2025年のタイドリアン輸出額は1,400億バーツ規模で、9割以上が中国市場向け。中国の大手バイヤーは2026年に1,500コンテナのタイドリアン輸入を計画している。一方で、(a)未熟ドリアンや「嵐で落ちたドリアン」の中国市場流通による品質問題、(b)他生産国(ベトナム・マレーシア・カンボジア)の追い上げ、(c)肥料コスト約60バーツ/kgへの上昇、(d)GAP認証の不正使用疑惑などのリスクが顕在化している。
タイ農業局は最近、農家のGAP認証を不正流用した梱包業者への法的措置を警告したばかり。今回の「チャンタブリモデル」はコスト削減だけでなく、品質トレーサビリティを担保する狙いも込められている。
関連背景
日本にもタイ産ドリアンは冷凍・冷蔵で輸入されており、コンビニや高級スーパー、タイ料理店で「モントン種」「カーンヤオ種」が出回る。今回の政策で原料コストが下がれば、輸出価格にも反映され日本店頭価格の安定要因になる。逆に品質管理が緩むと、未熟果・農薬残留問題で日本の輸入規制が強化されるリスクがある。
在タイ駐在員にとっては、(1)タイ国内のドリアン店頭価格(バンコクでも1kg200〜500バーツ前後で推移)、(2)スーパー・市場の品質、(3)タイ農業政策への中国市場の反応、が日々の買い物にも反映される。チャンタブリは日本人観光客が訪れる「ドリアン食べ放題ツアー」の聖地でもあり、産地のサステナビリティは観光資源としても重要だ。