プッタワジャン(ブッダの直接の言葉)布教で全国に知られるプラ・アジャーン・キックリッ・ソッティパロー住職(ワット・ナーパーポン、パトゥムタニー県)が2026年5月12日午前8時30分、弁護士チームを伴ってタイ警察庁公益・腐敗対策局(ปปป.)に自発的に出頭した。容疑は2012〜2016年の期間中、寺院資金を弟子1人あたり数十万バーツ規模のボーナスとして支給した寺院金横領と公務員職務違反の2罪で、最高15年の懲役が想定される。
タイ仏教法の規定では、信徒の寄付による寺院金は寺院の維持・修繕、僧侶の生活費・医療費、仏教教育、地域社会奉仕の4用途に限定されている。特定個人への報酬・利益供与は厳格に禁じられており、ボーナス支給は寺院運営の透明性違反・僧伽の戒律違反・刑事法上の横領罪という3重の問題をはらむ。
タイ法制度において僧侶は「公務員に準ずる地位」に置かれる。これは1962年のサンガ法(僧侶法)に由来する規定で、国家仏教局が全国の寺院を管轄し、僧侶の行動に行政的な統制を及ぼす体制による。この地位を持つ人物による寺院金の用途外使用は、民間の業務上横領罪より重い「公務員職務違反」として立件される仕組みだ。
プラ・キックリッ住職は原典回帰主義・パーリ語経典の直接引用という教学スタイルで多数の弟子と信徒を抱えてきた。「プッタワジャン」という教え方は、釈迦が直接語った経典の言葉のみを根拠にするというもので、タイ仏教界の一部では異端視される一方、若い世代を中心に支持層を広げていた。
今回の住職が自発的に弁護士チームを同行して出頭した点は注目される。ポーン・テーワサン元仏教局長は「自発的出頭は事実関係を自ら説明し、刑事手続きの早期解決を図る意図があるとみられる」と語っている。警察は出頭後も書類送検に向けて取り調べを継続した。
タイ仏教界ではノンカイ住職の性的犯罪による強制還俗、チェンマイでの寺院金流用事件など、近年不祥事が相次いでいる。今回の財務違反は性犯罪ではないが、寺院運営の透明性問題という共通課題を改めて浮上させた。タイ仏教局は全国2万余りの寺院に対して財務管理の強化指針を通達しており、2024年には寺院収支の電子申告制度が試験導入されている。
SNSでは布教実績を評価する支持者と寺院金管理の根本改革を求める批判者の意見が二分している。タイでは仏教が国民の93%以上の精神的基盤となっており(国家統計局2020年調査)、僧侶への信頼が損なわれる事件は社会的影響が大きい。