タイ・スラサク観光スポーツ大臣が5月11日、タイ国民が海外旅行する際に1人1,000バーツ(約4,900円)の「出国税」を徴収する制度の検討状況について公式コメントを発表した。「1983年(仏暦2526年)に施行された出国税法(พ.ร.ก.)の下で、財務省が徴収再開を検討している段階」と説明。具体的な料率は未確定で、対象業界・利害関係者を集めた意見聴取を経て最終判断するとした。狙いは「海外旅行で消費する資金をタイ国内旅行に還流させる」経済循環の促進だ。
タイの出国税制度は法的には既に整備されており、1983年制定の「出国税勅令(พ.ร.ก. ภาษีการเดินทางออกนอกราชอาณาจักร พ.ศ. 2526)」がベース法となる。長年運用が停止されていたが、財務省は同法の枠組みを使って徴収を再開する選択肢を検討中。決定権限は財務省にあり、観光省は政策提言の立場に留まる。
提案されている料率「1,000バーツ」はあくまで「噂レベル」とスラサク大臣は明言した。「報道で出ている1,000バーツの数字は確定したものではない」とし、財務省が(1)関連省庁、(2)航空業界、(3)旅行業界、(4)市民代表を集めて意見聴取を実施。経済への影響、徴収効率、納税者の反応などを総合評価したうえで料率を決める。
政策の論理は明快だ。タイから海外旅行に出かけるタイ国民は年間1,000万人規模で、これらの旅行者は外貨を持ち出して消費する。出国税で徴収した資金をタイ国内旅行振興の「共同支払い(Co-Pay)」プログラムに充てれば、国内宿泊・飲食・観光体験への補助を通じて「タイ人がタイで消費する経済循環」が拡大する。政府予算だけに頼らず、自己資金型の観光促進が可能となる。
時期的には、観光省が観光産業の苦境(4月外国人観光客-7%・パッタヤホテル稼働率30-40%)と並行して、内需型の観光促進策を模索する文脈に位置づけられる。フリービザ60→30日短縮で外国人観光客の長期滞在を抑制する一方、タイ国民の国内旅行を促進する「Co-Pay」プログラムで内需を補完する戦略の二本柱と読み取れる。
国民の反応は分かれている。「年1,000万人規模の海外旅行客から徴収する」収益は理論上100億バーツ(約490億円)規模で、財源として大きい。一方、(1)格安航空券で頻繁に海外旅行する若年層への負担、(2)国境を越えて買い物・医療目的で海外に行く住民への影響、(3)出国手続きの煩雑化など、現実的な負担が指摘されている。
タイ在住の日本人駐在員家族にとって、この出国税は重要な政策動向だ。バンコク・スワンナプーム空港から日本・他国に出国する際、現在は徴収されていないが、今後制度化されれば1回出国ごとに1,000バーツ(約4,900円)の追加負担が発生する可能性がある。年に複数回出国する場合は累計負担が無視できない金額となる。タイ国民とタイ居住の外国人(永住権・長期滞在ビザ保有者)への適用範囲が今後の焦点となる。