タイ東北部ウボンラチャタニ県ブンタリック郡フアイカー区で5月9日夜、薬物中毒の症状を示していた41歳の男が刃物で母親(73)の首と頭を切りつけて殺害したうえ、遺体の脇に座り込んで動かない状態でいるところを警察に拘束された。男は実の息子で、警察の聴取に対しても支離滅裂な発言を続けている。
通報を受けたのはフアイカー警察署のアピチャート副捜査官で、ニラン・ケーオパクディ署長と捜査班、ブンタリック病院当直医、ブンタリック救助隊が現場に急行した。事件現場は平屋の住宅で、居間中央でリアン(仮名/姓非公表)さん(73)が血だまりに横たわって死亡しているのが発見された。死因は鋭利な刃物による首と頭部への切創とされる。
近くには容疑者のシーペット(仮名/姓非公表)容疑者(41)が、目を血走らせ、意味不明な発言を繰り返したまま座り込んでいた。警察は即座に身柄を確保したが、聴取での会話が成立しない状況が続いている。タイの報道で「คลั่งยา(クランヤー=薬物中毒で正気を失った状態)」と表現される典型例で、ヤーバー(メタンフェタミン覚醒剤)の長期摂取による精神症状が事件の引き金になった可能性が高い。
ウボンラチャタニ県を含むタイ東北部(イサーン)は、ラオス・ミャンマー国境からのヤーバー流入の最前線で、村落レベルでも薬物常習者が珍しくない。家族・近隣による身体的・経済的トラブルがエスカレートして殺人に発展する事件は、ここ数年だけでも複数報告されている。子が親を、または親が子を、薬物中毒下で凶器で殺傷するパターンは、タイの警察が「家庭内薬物起因殺人」として深刻視している類型だ。
タイ警察庁は氷状メス238kgをメコン国境で押収(5/8)、ピンクタクシー輸送のメス220万錠押収(5/9チェンライ)など、密輸の規模が拡大しているが、需要側=末端の常習者を抑える施策が追いついていない構図がある。
直近では、ランパーンで43歳のヤーバー販売男が車椅子の障害母を抱えて十年以上活動していた事件も報じられたばかり。今回のウボンの事件と合わせ、薬物常習者の家庭が抱える複合的な貧困・介護・精神疾患の問題は、タイ社会の構造的脆弱性として残り続けている。
タイ駐在の日本人にとっては、地方都市・農村部の家庭内事件が直接的に身近とは言えないが、ヤーバー由来の凶悪事件はバンコク郊外でも散発しており、住居選びや夜間の単独行動に間接的に影響する。タイ政府の薬物対策が抑止と治療のどちらに軸足を置くかが、今後の家庭内事件の発生頻度を左右する。