タイ南部シーサケート市の寺院ワット・ノントマの裏に広がる「ノントマ池」をめぐり、地元住民からの強い反発が起きている。住民組織が投資家に池の漁業権を委託して「網漁チケット販売」イベントを開催する計画を打ち出したことが発端で、住民の信仰と寺の財政事情、土地の所有権という3つの問題が複雑に絡む事案として注目を集めている。
ノントマは寺院ワット・ノントマの裏側に位置する大きな自然池で、ティラピア、サンプ、ヤースックなど多様な魚種が大量に生息している。地元住民は10年以上にわたって、週末や誕生日に魚を放流したり餌付けしたりしてきており、池に集まる魚の人懐っこさはこの長期間にわたる「保護慣行」の結果である。
住民の多くはこの池を仏教的な「放生区(เขตอภัยทาน)」、つまり水生生物への殺生が禁じられた聖域として認識してきた。過去にはそれを示す看板も設置されていた経緯がある。寺院の食堂建設や修繕の資金不足を補うために、地元住民組織が「投資家に池の漁業権を委託し、網漁チケットを販売する」という計画を提案した瞬間、住民から「放生区を売り払うのか」と強い反発が上がった。
ところが、調査の結果として浮かび上がったのは別の事実だった。ノントマ池は実は寺院ワット・ノントマの登記済み土地の中には入っておらず、公有地としても文書(国の公有地証書、นสล.)が存在せず、土地の境界調査と確認作業がまだ進行中の状態にあった。「寺の池」という認識自体が、長年の慣習による曖昧なものだったということになる。
寺の住職は事の重大さを受けて、「住民の感情に十分に配慮できていない部分がある」「とにかく計画は延期して、もう一度議論しよう」と発言した。資金調達の必要性は認めつつ、信仰と地域社会の感情を踏みにじるリスクの方が大きいとの判断である。シーサケート市当局による土地の所有権確定と、住民・寺・投資家の三者協議が、今後の落としどころを探る焦点となる。