3月31日午前9時30分、汚職対策委員会(ปปท.)のプーミウィサーン・カセームスック事務局長が自ら現場に赴き、内務省・国家警察・反汚職委員会(NACC)・特別捜査局(DSI)との合同チームがアユタヤ県ワンノーイ郡の郡役所を急襲した。作戦名は「古都のカード切り(สับไพ่นครหลวง)」で、副郡長(パラットアムプー)と元戸籍・IDカード担当責任者を含む6人を逮捕した。逮捕状はバンコクの汚職・不正行為専門刑事裁判所第1管区が発付した。
容疑の核心は、タイ国籍を持たない外国人に対して不正にタイのIDカード(バットプラチャーチョン)を発行していた組織的な汚職だ。捜査の過程で判明した衝撃的な事実は、不正にIDカードを取得した外国人の多くが15歳未満の児童だったという点だ。タイのIDカードは13歳から発行が義務付けられているため、タイ国籍を持たない外国籍の子どもに公式IDを発行することは明白な違法行為となる。
アユタヤ県ワンノーイ郡は首都バンコクから1時間ほどの近郊に位置し、周辺には大規模な工業団地が集積している。ミャンマー、カンボジア、ラオスなどからの移民労働者が多く働く地域でもあり、身分証明書をめぐる不正が生まれやすい土壌がある。外国籍労働者が正規の滞在・就労資格を持てないまま、不正なIDカードで身分を偽るケースが繰り返されてきた背景がある。
こうした不正IDカードの取得は、単に就労や生活上の便宜にとどまらず、金融詐欺・不動産取得・選挙不正など多岐にわたる二次的な犯罪に利用されるリスクを孕む。特に15歳未満の児童が対象とされていた点は、その子どもが将来にわたって不正なアイデンティティを持つことになり、教育・医療・社会保障など公的サービスへのアクセスにも歪みをもたらす。
タイでは地方行政機関と外国人雇用業者の癒着による不正ID発行事件が過去にも複数摘発されている。しかしこれほど大規模かつ省庁合同での摘発が行われたのは異例であり、政府が外国人の不法滞在・不正就労問題に対して本格的に取り組む姿勢を示したものと受け止められている。