タイ中部ピチット県で3月29日、地方自治体(テーサバーン)の選挙が実施され、票の買収価格が1票300バーツだとの噂が選挙区内を駆け巡った。4年前の同じ選挙では1票8,000バーツで買われていたとされており、「相場」がこの4年で実に26分の1以下に急落した形だ。
選挙が行われたのはムアンピチット郡のクローンカチェントーン自治体とドーンチャルーン郡のワンギウタイ自治体の2か所。どちらの投票所にも200〜300人の有権者が列をなし、活発な投票行動が見られた。特にクローンカチェントーンでは「買収の噂があるから」と来場者が例年より多かったとの声もあった。
ピチット県選挙管理委員会のアモーン・ラチャタンクン局長は「現時点で買収に関する正式な苦情は届いていない」と述べた。タイでは票の買収は公職選挙法上の犯罪だが、地方選挙では公然の秘密として語られることが多く、摘発例は限られている。
買収額が大幅に下落した背景には複数の要因が重なっている。まず2025〜2026年の燃料危機による物価高騰と経済の逼迫で、候補者側の資金繰りが苦しくなったとの観測がある。次に、選管や内務省が買収監視を強化しており、大規模な現金配布がリスクを伴うようになった。さらに選挙の頻度が増えたことで有権者1人あたりの「値段」が下がったという見方もある。
300バーツとはタイの日雇い労働者の最低日給(340バーツ)をやや下回る水準だ。4年前の8,000バーツはほぼ1か月分の農村部の収入に相当した。この差は単なる物価の問題ではなく、買収コストとリターン(当選後の権益)の計算式が変化していることを示唆する。
タイの地方自治体選挙は住民の生活に直結する道路整備、水道、学校運営などを管轄する。候補者が当選後に建設契約や人事を通じて投資回収する構造が続く限り、買収の動機は消えない。一方で買収「相場」の低下自体は、有権者の意識変化や監視強化が一定の効果を上げている証拠とも受け取れる。