ピチット県サークレックの農家、スタープ・ルムチュムポン氏が悲鳴を上げている。生食用マンゴー「ファーラン」の買い取り価格が1キロあたり2〜3バーツまで暴落し、先月の20バーツから一気に10分の1以下に落ちた。
スタープ氏はサークレック郡に農地を持ち、長年ファーランとケーウサワイを栽培してきた。3月23日時点で卸売業者に持ち込んだ価格は、ファーランが1キロ3バーツ、先月は同20バーツだった。「収穫するほど赤字になる。収穫・選別・輸送の人件費だけで採算が合わない」と訴える。価格が急落した理由は本人にも分からず、「とにかく政府に早急な支援を求めたい。マンゴー価格の低迷は数年続いており、今年が最もひどい」と語った。
農家がマンゴーを市場に持ち込まざるをえない理由は単純だ。収穫後に保管しても自家消費できる量に限界があり、そのまま腐らせるよりは安くても現金化して肥料代や農薬代の一部を賄うしかない。ファーランは熟すと果肉が崩れやすく、収穫後の保管期間が短いため、価格交渉の余地がほとんどない。
タイのマンゴー生産は毎年3〜4月に収穫のピークを迎える。ピチット県はタイ中部の農業地帯で、米やサトウキビとともにマンゴーの産地として知られる。しかし中国向け輸出が多いドリアンやマンゴスチンと異なり、生食用の国内向けマンゴーは価格支持の仕組みが乏しい。今年は気候条件が重なって各地で収穫量が増え、市場への供給過多が買い取り価格を押し下げたとみられる。
背景には燃料価格の高騰による輸送コスト増加もある。農家から卸売市場まで運ぶトラック費が上昇しており、手元に残る利益はさらに薄くなる。タイ農業省のデータによると、同国のマンゴー農家は全国に約27万戸あり、その多くが小規模経営だ。生産コストを下回る価格が続けば離農が加速し、産地の維持が難しくなる。政府はこれまでも農産物価格安定化策として備蓄買い取りや輸出促進を実施してきたが、即効性ある対策は届いていない。
日本でマンゴー1個が500〜1,500円で販売される現実と比べると、生産現場との価格差の大きさが際立つ。流通コストや品質管理の差があるとはいえ、農家に渡る価格が消費者価格の1%以下になることもある構造は、農業国タイの抱える課題を端的に示している。
タイのマンゴー輸出量は年間約20〜30万トン規模で、主な輸出先は中国・日本・韓国だ。高品質の輸出向けマンゴーには一定の価格が付くが、国内向けの生食用は価格支持が弱い。カンボジアからの安価な輸入マンゴーが流入しているとの指摘もあり、農家の交渉力は構造的に弱い。スタープ氏のような中小農家が声を上げても、政府の大規模な価格介入が実現するには時間がかかる。マンゴー価格の低迷は今年に限らず数年続いており、「今年が最もひどい」という農家の言葉が事態の深刻さを物語っている。