2026年3月23日、タイ上院の本会議でデーチャー(ธวัช สุระบาล)議員が、燃料危機に便乗した官僚の規制行為に強く抗議した。「農民が携行缶を持ってスタンドに燃料を買いに行くことを禁止した役人がいる」と具体的に名指しして批判し、議場が沸き立った。
議論の発端
3月22日以降、タイ全国でディーゼル燃料の在庫枯渇が相次いだ。一部のスタンドは在庫が完全になくなり閉鎖。農民たちは農業機械に使う燃料を確保するため、ポリタンクや携行缶を持ってスタンドに並ぶ姿が見られた。
これに対して一部の地方行政官や警察が「容器による持ち帰り購入はガソリンスタンド火災の危険がある」などとして制限しようとした動きがあり、SNSでも批判が広がっていた。
デーチャー議員自身の兄弟がタラン県でスタンドを経営しており、3月22日から燃料が尽きて閉鎖を余儀なくされていたという。「末端まで燃料が届いていない現実を政府はどう説明するのか」と問いただした。
石油備蓄の放出との矛盾
政府は燃料危機対応として石油備蓄(戦略備蓄)の放出を表明していた。しかし上院議員からは「備蓄は放出されたと言っているのに、なぜスタンドには届いていないのか」という疑念が噴出した。
デーチャー議員は「備蓄業者による買い占めが起きているに違いない。末端に届かないのはそのためだ」との見方を示し、政府に対して流通経路の完全な透明化を求めた。
農業への深刻な影響
上院議員ラチャニーコーン・トーングティップ(รัชนีกร ทองทิพย์)議員が提出した緊急動議によると、燃料危機は農業セクターに重大な影響を及ぼしていた。
田植えや収穫に使うトラクター、灌漑ポンプ、農産物の輸送車両がすべてディーゼルに依存しており、燃料が得られなければ農作業が止まる。特に東北部(イサーン地方)の米農家と中部の野菜農家が深刻な打撃を受けていた。
上院はこの日、中東情勢に端を発する燃料危機がタイ国内に与える影響を審議する緊急動議を採択した。
「リットル千バーツになってから文句を言うな」
デーチャー議員の発言の中でとりわけ話題になったのが、「このまま状況が続けばディーゼルが1リットル千バーツになるかもしれない。そうなってから農家に『米を作ってくれ』と頭を下げに来ても遅い」という発言だ。
行政が農民の苦境に寄り添う姿勢を欠いているという批判を、極端な比喩を使って表現したもので、SNSでも広く引用された。
タイの上院は2024年の改革で全席任命制から一部選出制に変わっており、市民の声を直接代弁するような発言が増えている。今回の発言は上院の機能変化を示す一場面ともいえる。